Vol.69

スタートアップも人生も、短期的にリスクを取っても中長期でのリターンを目指す。失敗を恐れず常にチャレンジを続けるSmartHRでの仕事は、日々真剣勝負で最高に面白い。

株式会社SmartHR

取締役 COO倉橋隆文 氏

公開日:2023.06.8

インタビュアー 永田・入江

「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」をコーポレートミッションに掲げる株式会社SmartHR。労務管理クラウド5年連続シェアNo.1(※)のクラウド人事労務ソフト『SmartHR』は、働くすべての人を後押しするプラットフォームへと成長を続けている。同社の取締役COOを務める倉橋隆文氏に、これまでのキャリアの歩みと同社で働くことの魅力についてお話を伺った。

※デロイト トーマツ ミック経済研究所「HRTechクラウド市場の実態と展望 2022年度版」労務管理クラウド市場・出荷金額(2022年度見込)

Message

短期的なリターンよりも中長期でやりたいことを実現できるか。29才の時の決断が転機に。

永田
まず初めに、倉橋さんのこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますか。
倉橋
私は大学卒業後に理系の大学院へ進学して物理学者を志していましたが、修士1年生の時点で合わないなと痛感しました。1日中地下の研究室にこもって3ヶ月経ってやっとデータを集め終わるというのは、人とのつながりが無くて時間がかかり過ぎると思ったんです。そこで、研究者はあきらめて他の道を探し始めたのですが、高校生の時から研究者を目指していたのでそれ以外の道を考えておらず、どうしようかなと思った時に、仲の良い友人に「倉橋は論理的だから、コンサルが適しているのでは」と言われてコンサルを受け始めたのがきっかけで、最初にオファーをいただいたマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社しました。

マッキンゼーでは2年半ほど幅広い業界のプロジェクトを経験させていただき、ハーバード大学のMBAに社費留学で行きました。当時、新規事業の創り方の授業で「アメリカで成功しているスタートアップ100社における『創業時のプランで成功している率』は1割を切っており、9割以上は事業をピボットして最初のプランとは全然違うところで成功している」という事実を知って、世の中の事業はプランニング通りに行くことなんてほとんど無いんだなと実感しました。

プランだけではダメで、実行してフィードバックを受けてPDCAを回し、市場と真剣勝負で向かい合いながら良いものを創り続けていくことが本当のバリューではないかと強く感じて、29才の時に1000万円以上の留学費用の借金を背負ってでもコンサルを辞めると決意しました。ITが好きだったのと、MBA留学中に感じた実業でやっていくために必要な泥臭さを学びたいという考えから楽天を選び、約5年間働きました。

楽天では、社長直下の大型のM&A案件や新規事業やターンアラウンドのプロジェクトマネージャーの経験を多く積ませていただき、海外子会社の社長を務めていた時期には「経営とは何ぞや」ということを学びました。前任社長の後を引き継ぐ形で私が入ったのですが、1年間色々と苦しみながら模索したものの、最終的にはメインのサービスを閉じて、チームの一部をリストラするという経験をしました。自分の力不足を痛感するとともに、ビジネスは甘くないなというのが一番の学びでしたね。

元々その会社は、非常に業績が良い時期があったのですが、そのまま新たな手を打たずに悪化してしまったという背景がありました。一度ダメになった組織や事業の立て直しがどれだけ難しいかを痛感して、自分が今後経営に携わる際には同様の事態を招かないように本気で先手を取る必要があると学べたことが大きかったと思います。最後の半年間は新規事業を経験させていただきました。世の中に新しい価値を届けていくことで自分たちのサービスが浸透していき、それにともなってチームも勢いよく成長していくのがとても楽しかったので、その経験がきっかけでスタートアップへの転身を決め、6年ほど前にSmartHRに転職して今に至ります。
入江
29才で1000万円以上の借金を背負ってマッキンゼーを辞めたのが本当に凄いと思います。なぜ当時この決断ができたのか、ご自身で思い当たるものはありますか?
倉橋
私は長期的なリターン思想なんですね。短期的なリターンよりも中長期的にやりたいことを実現できるかどうかを重視しているので、MBA留学時に実業をやりたいと強く思い、短期的な30代前後の貴重な2年間と1000万円という額を天秤にかけた時に、「お金よりも時間だろう」と選択できたということかと思います。

話は少し逸れますが、スタートアップというのは中長期的に大きく伸びれば良いという思想に基づいて、短期的にはリスクを取り続けてキャッシュを燃やし続けながら成長をめざすので、私自身の思考的に向いているのかなと思っています。もう1つは、自分にとって何が幸せかという価値観ですかね。私にとっての幸せは「日々やりがいのある仕事ができること」です。もちろん生活する上で一定のお金は必要ですが、それ以上に関してはお金のために働くのは幸せではないなという考えがあったので、この決断ができたのかなと思います。
永田
楽天から次のキャリアに移られる際には多くの選択肢があったと思いますが、SmartHRを選ばれた決め手は何でしたか?
倉橋
SmartHRに決めた理由は大きく2つあります。1つは当社のビジネスが当時から良いと思っていたことです。規模で言うと今の100分の1未満ながら既に良いサービスを創れていましたし、当時の主力サービスは社会保険手続きを効率化するというものだったのですが、従業員の最新データがクラウドに蓄積され続けるという素晴らしい副産物があることが当時から見えていたので、創業者の宮田にも「SmartHRは今の事業だけでもそれなりに成長するが、その上でデータをうまく使えたら大成功の可能性がある勝負をできる会社だと思います」と伝えました。実際に今それが現実になりつつあり、労務業務で蓄積したデータを活用したタレントマネジメント領域に進出していますし、それ以外にも人事データを活用して拡げていけると思っているので、今まさに大勝負を仕掛けられているタイミングです。ここから更に面白くなるなという点では、「6年前の自分は間違っていなかったぞ」と(笑)。

もう1つは、当社のカルチャーがとても好きという点です。当時、「倉橋さんが入ってきてくれたらビジネス側は全部任せますよ」と宮田が言ってくれました。当社は権限委譲の文化が強くて、個人的には好きですね。私はマイクロマネジメントするのもされるのも苦手ですし、任せられたほうがフルポテンシャルを発揮できると思っています。実際に入社後も予算の決定などは全部任せてもらえています。また、私自身も今は任せるスタイルで経営ができていて、気持ちよく仕事ができています。

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COOの仕事は、自信と謙虚さの二面性を併せ持ち、事業の中長期的な成長を担保すること。

永田
SmartHRに参画され、T2D3達成に向けての期間だったと思いますが、その中でどのようなミッションを担ってこられたのでしょうか。
倉橋
入社当初はホームページの動線設計や料金改定の企画実行、ユーザーさんへのご案内など現場の泥臭い実務もかなり手を動かしていましたが、徐々に組織も事業も大きくなってマーケティングやセールス等各領域のプロが出始めてくると、私の仕事は全体的な戦略や仕組みづくりの割合が多くなりました。

特に従業員数が100名規模になった頃からモードが変わり始めて、誰が何をやっているのか見えづらくなったフェーズがありました。それまでは互いの顔も見えて阿吽の呼吸でやれていた業務を、半年ごとのプランニングと役割分担を行い、KPI管理するという業務が増えていきました。そこから更にフェーズが進み、役割分担したリーダーや役員陣が揃ってきたので、現在の私の仕事はより未来を見るようなものに変化してきており、「5年後、10年後により良い価値を生み出してエキサイティングな会社であり続けるためにどうするか」ということをずっと考えていますね。

COOというのは面白い仕事だなと思っていて、事業が中長期的に成長し続けることを担保する人間だと考えています。そのために、CEOが得意な領域以外のすべてを担うということが求められます。SmartHRのCEOは歴代2人とも組織創り・文化創りに長けている一方で、個別の実務にはあまり口出ししないというタイプなので、CEOの描く中長期的なビジョンに対してどういう戦略なら実現できるのかを考えるのが当社のCOOの今の仕事かなと思っています。
永田
ご自身の成長を続けるために、どのようなマインドで取り組んでこられましたか?
倉橋
経営者に求められる素養として、自信と謙虚さの両方を持ち続けることが大事かなと思っています。このチームなら絶対できるという自信を持ちつつも、一方で自分は今大きな見落としをしていないか、それによって3年後に会社の成長が停滞しないかという心配性なところも含めて常に二面性を持ち続けることを意識しています。

そのために、先行している海外企業の事例をスタディしたり、国内でも他のスタートアップ企業の方にお話を聞かせていただいたりという勉強を日々継続しています。社内でも「フィードバックをくださいね」とメンバーにお願いしているのですが、なかなかフィードバックをもらえておらず、ここは私の『人間力』の伸びしろかなと思っています(笑)。現在、そういう客観的な視点が継続的に担保されるようなガバナンス体制を構築していこうと考えているところです。
永田
コンサル経験で現職に活きたこと、またアンラーンすべきことはありますか?
倉橋
コンサル時代に得られた経験で一番今活きているのは、課題解決力ですね。難しい課題があったときに、その本質を見極めて分解して優先順位付けて結論を出すというのは今の環境でも常に使えるので、本当にマッキンゼーで鍛えられて良かったなと思っています。

アンラーンが必要な点としては、コンサルからIT企業やスタートアップ企業に行く場合には、スピードとクオリティのバランス感を変えないといけないと思います。外資系のコンサルタントの方は大企業のお客様の案件を担当するケースが多く、大規模プロジェクトの大きな予算に関われるのでプランニングの時間も長いです。

一方、IT業界では何ヶ月もかけてプランニングするよりもどんどんやってしまう方が早いという世界なので、失敗は必ずしも悪いことではないというマインドセットに切り替えると良いかと思います。「最近、失敗した経験はありますか?」と、ある株主の方に時々問われるのですが、これは示唆に富んだ質問だと思っていて、「失敗していない」=「チャレンジしていない」ということであり、変化の激しいスタートアップとしては中長期的には死んでいく経営ということなので、失敗するほうが停滞よりはマシだという考えを持てると良いと思います。

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スタートアップでの真剣勝負は最高に面白い。活躍の鍵は、「アンラーン」と「人間力」。

永田
コンサル出身の方にとって、貴社でキャリアを積む魅力や面白さは何でしょうか?
倉橋
当社であれば間違いなく実践経験が積めるということと、どんどん新しいことにチャレンジし続けることが大事だと経営陣が心から思っている点です。特にCEOの芹澤は、「イノベーションを興す会社にし続けることが自分の使命だと思っている」と言っています。規模は大きくなりましたが、小さいスタートアップに負けないくらいチャレンジしていますし、体力もあるのでチャレンジの打席数は増えていると思います。新しいことへの挑戦に携わっていただけますし、実行して結果が返ってくるという生々しい責任感を伴う事業を経験できて、本当の意味でのビジネススキルを身につけられると考えています。

当社で活躍できる人は、アンラーニングできる人だと思います。環境が変われば、活躍するために必要なマインドセットや動き方や価値観を変えないといけないので、そこを認識し過去の成功体験の中で転用できる部分は抽出しつつ、環境に合った戦い方や動き方を身に着けられる方が活躍しやすい傾向にあるかなと思います。もう1つ付け加えると、優秀なだけではなくて人間力も必要だと思います。事業はチームで創り上げるものであり、いくら優秀な方であってもチームワークが無いとなかなか活躍は難しいので、人間力や人を巻き込む力は大事だと思います。
入江
人間力を高めるために、何か良い方法はありますか?
倉橋
座学で学べるものは限定的かと思っていて、人生経験やマネジメント経験が直接的に出る領域だと感じています。若手の方が意識できるところがあるとすれば、今まで自分が接してきたマネジメントの中で「真似したい」「反面教師にしたい」ということを分類して保存しておくと、理想とするマネジメントスタイルが見えてくるのかなと思います。私自身は、今まで自分が受けてきたマネジメントの良いところ・悪いところの影響を受けています。あとは、本当に人間力が問われる環境に飛び込んでいただくしかないと思いますね。
永田
最後に、この記事を読まれている方々へ向けてぜひメッセージをお願いします。
倉橋
マッキンゼー在籍時にはコンサルの仕事が本当に面白いと思っていましたが、事業会社に移ってみて日々嬉しいことも大変なことも色々起きるものの、手触り感があって仕事は圧倒的に楽しくなりました。コンサルは知的好奇心は満たされるものの、実行までやらないと本当の仮説検証はできないと感じています。

一方、スタートアップでは物凄い勢いで仮説検証されて数字でリアルタイムで跳ね返ってくるので、この真剣勝負が最高にヒリヒリして最高に面白いんです。それにともなってチームも成長していきますし、「あんなに苦労していたメンバーがこんなに活躍して…」と思わずひとり涙ぐむこともあるぐらい、本当に真剣にやっている実感があって楽しいです。ただ、その楽しい仕事を私が独り占めしてしまってはいけないなという思いも常に持っています。もし少しでも事業会社でのキャリアにご興味のある方がいれば、当社はコンサルの方が活躍しやすい環境だと思いますので、ぜひチャレンジしてみていただければと思います。



構成:神田 昭子
撮影:波多野 匠

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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