Vol.65

新規事業のテーマは誰にも等しくチャンスがあるが、事業化できるかどうかは組織能力に依存する。太く長い社会課題の解決に取り組むには、独自の方法論を確立しつつあるオムロンのIXIは最適な環境と言える。

オムロン株式会社

執行役員 イノベーション推進本部長石原英貴氏

イノベーション推進本部 ビジネスプロデュースセンタ長縄田昇司氏

公開日:2022.05.13

インタビュアー 入江・永田

オートメーションのリーディングカンパニーとして、工場の自動化を中心とした制御機器、電子部品、駅の自動改札機や太陽光発電用パワーコンディショナーなどの社会システム、ヘルスケアなど多岐にわたる事業を展開し、約120の国と地域で商品・サービスを提供するオムロン株式会社。同社のイノベーション推進本部(以下、IXI)をリードする石原英貴氏と縄田昇司氏に、IXIで新規事業を立ち上げる魅力についてお話を伺った。

Message

社会課題が大きく変化してきた今、新規事業創出の志を持ったメンバがIXIに集結。

入江
まず初めに、お二方のこれまでのキャリアについて簡単にお話いただけますか?
石原
私は、ソニーでエンジニアとしてキャリアをスタートしました。リチウムイオン電池の研究開発から商品化するところまで約5年間経験した後、ソニーを退職してアメリカのビジネススクールへ留学しました。帰国後、ドリームインキュベータで約10年間コンサルタントとして経験を積み、2020年3月にオムロンへ入社しました。
縄田
私は、サン・マイクロシステムズで約7年間新基幹システム構築やプリセールス、インフラソフトウェアPMなどを経験した後、アーサー.ディ.リトルに転職して約5年間経営コンサルティング経験を積み、ソフトバンクでのロボットの新規事業業務と海外展開を経て、2021年6月にオムロンへ入社しました。
入江
IXIのミッションについてお聞かせください。
石原
当部門の最大のミッションは、新しい事業を創り出すことです。当社の歴史を振り返ると、創業者の立石一真がまず工場のオートメーションに着目し、次に人や車の流れを制御するモビリティ、更に1960年代からはヘルスケアの領域に進出してきました。

世の中の変化と大きな社会課題を解決していく上で、事業を通じて実現しない限りはサステナブルな仕組みにならないため、当社では「事業を通じて社会課題を解決する」ことを企業理念に掲げています。

創業者が前線を退いた1980年代以降は、世の中全体が高度経済成長期で新規事業を生み出す必要が無かった時代が続きましたが、現在は右肩上がりの成長から成熟社会に移行してきていて、モノも大量消費しなくなり、車もシェアリングで減らす方向となっていて、鉄道もコロナ禍で人の流れが減少する等、社会課題が大きく変化しています。

こうした世の中の変化によって生まれた新しい社会課題に対応して新しい事業を創っていくことが、この数年間社内で議論の対象になってきたこともあり、既存事業と新規事業の両側面で価値創出を続ける、いわゆる「両利きの経営」を実現するための新組織としてIXIは設立されました。
入江
IXIの組織構成や特徴についても教えていただけますか?
石原
現在は約100名体制であり、中途入社の割合は約2割程度です。ほかにも、自身のWillや志を持ち、オムロングループ内の社内公募/応募に手を挙げた多くのメンバで構成されている点が特徴です。新規事業の立ち上げには相当苦労も多いのですが、自ら手を挙げて来ているので覚悟が違いますね。中途入社の方も志を持って参画いただいており、マインド面は組織として非常に強いと思います。

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太く長い社会課題×組織能力が高まるためのプロセス=IXIにおける新規事業の成功。

入江
新規事業の立ち上げにおいて、貴社の競合優位性やお強みはどのような点ですか?
石原
2018年の組織設立以来、IXIがこの4年間注力してきたのは、新規事業の立ち上げに関する意思決定を組織能力としてできるようにしていくことです。「どういう案件に投資すべきか」「まだ足元の利益にもなっていない案件をどう評価するのか」という極めて難しい判断を経営メンバができるようにしていくためには、然るべきプロセスが必要です。

この4年間で失敗もありながらも様々なテーマを回してきた経験の中から、こうやればうまくいくというエッセンスを抽出して創ってきたのがIXIのプロセスです。まだまだ途上ではありますが、この方法論のもとで様々なテーマを実行していけば、他のどこにも無い経験とナレッジを持てるようになるはずです。

誰にも等しく良質なテーマを手掛けるチャンスはあるのですが、それをモノにできるかどうかは組織側の能力に依存すると考えています。他社よりも高いレベルで組織能力を構築できれば、我々がそのテーマを事業化できる確率は非常に高まると思います。
入江
貴社では、新規事業における成功をどのように定義していらっしゃいますか?
石原
新規事業では売上がいくらという議論になることが多いのですが、それは当然必要であると思う一方で、そこに至る過程の成功がいくつかあると考えています。

1つは、「組織能力が高まっていくためのテーマの進め方ができているかどうか」です。仮にそのテーマはうまくいかなくても、次に回すテーマを前回よりも上手く回すための知見やノウハウが蓄積されていくと、プロセス側が鍛えられていくので、良いテーマが来た時には事業を生み出せる確率が非常に高まります。最終的なアウトプットと、その過程で我々が得たものの両者を成功として定義しないと、殆どのケースが失敗とみなされ、メンバのモチベーションが保てなくなってしまいます。

次に、事業を創るときも単純に規模だけで考えるのではなく、「解決にコミットする社会的課題(ソーシャルニーズ)が長く太いかどうか」を重視しています。社会的課題が長く太ければ、仮に単体では20~30億規模の事業でも、社会的課題の解決に共感する多くの人が「こういうことを一緒にできないか」と声をかけてくるものです。そういう事業をどれだけ創れるかが、成功の定義になると考えています。
入江
これまで事業化に向けて取り組みを進められている新規事業の事例もぜひお聞かせいただけますか?
石原
3つほど事業検証を進めている事例をお話したいと思います。1つは、農業のオートメーションを進めることです。中国では、かつては農薬も大量に使っている食品が市場に出回っていたのですが、近年は高いお金を払ってでも残留農薬ゼロで美味しいものを求める人が多くいます。

ただ、農業従事者の技術はそこまでのレベルに達していない。そこで、技能が熟練していなくてもテクノロジーの力を借りれば残留農薬ゼロの食品がつくれるよう我々がサポートすることに極めて価値があるんですね。それが実現できれば食品が高く売れるので、農業従事者の所得も増える。これは、工場のオートメーションと同じ発想であり、農業従事者の仕事を高付加価値にすることで豊かにしていき、社会全体を良くしていこうということです。

2つ目は、介護の予防領域です。これは今の世の中の仕組み上、まだ難しいところは多くありますが、確実に保険制度も動こうとしています。高齢者が増える一方、若者が減っていく中でどうやって今後高齢化社会を支えていくのかという世の中の太い長い社会課題のもとに生まれたソーシャルニーズですので、近い将来かなり太いビジネスになるのではと考えています。

3つ目は、製造現場でのデジタル化の領域であり、紙ベースの情報をいかにデジタルデータに変えて価値を生み出していくかというところに取り組んでいます。
入江
新規事業の立ち上げにおいて、どのフェーズまで関わることになるのでしょうか?
石原
ケースバイケースですね。自ら立ち上げた事業を拡大して将来の事業部長になっていく人もいるでしょうし、テーマによらず様々な事業化できるネタを創っていくことに興味がある人もいます。ご本人の意向次第で、フレキシブルにキャリアパスを描いていただけるかと考えています。

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一事業の立ち上げではなく、新規事業が多産される仕組みづくりに興味があるならIXIへ。

入江
IXIでコンサル経験者を求めておられる背景を教えてください。
石原
我々はBtoBで社会課題の解決を目指しています。業界構造を明確にした上で、「自分達はどこを担うのか」「誰と協力してやっていくのか」という全体像を描き、ステークホルダー達に提案をし、協業・共創しながら事業を創っていくためには、全体を俯瞰する能力や、ステークホルダーとのWin-Win構築のために相手が腹落ちするストーリーやシナリオをつくる能力が必要です。これはコンサル経験者の方にとっては経験済みのことが多いため、ご自身の能力を非常に発揮しやすいのではないかと考えています。
縄田
そうですね。特にプロジェクト規模が大きい場合は、JVの投資先や提携交渉中の別会社等、自社と距離が遠いところを成功させることができれば、その分レバレッジも効かせられて新規事業で得られる価値も大きくなります。そういう難しい仕事を成功させる上では、ベースとしてのプロジェクトマネジメントスキルが高い人を必要としています。
入江
どんな領域のコンサルティングを経験した方だと、フィット感が高いでしょうか?
石原
新規事業の場合は何をやるにも枠組みが無いので、フレームワークからまず自分達で考えないといけないんですね。そうなると、お題目と要件が明確に決まっている中で課題を解きに行くというアプローチではなくて、お客様とのディスカッションから課題設定を炙り出していくような経験を持っている戦略系コンサルの方が望ましいかと思います。
縄田
ゼロから課題を見極めて答えをつくっていく意味では、戦略系コンサルの経験が生きるのはその通りですが、新規事業を進めるには事業会社の中でビジネスを推進していく突破力や人間力も必要です。

例えば、ICTを活用した介護予防ビジネスを成功させるためには、属人化されたノウハウをどうテクノロジーで置き換えていくかが非常に重要となります。現場の相手に合わせたコミュニケーションを取りながら粘り強くドライブしていくことが自分の仕事であると認識した上で、その仕事が成熟社会において非常に価値を生むのだという意義を感じられる方だとありがたいですし、本当にこのチームを成功に導いてくれる方だと感じますね。
入江
コンサルから日系大手企業にジョインされて、ギャップを感じた点はありましたか?
縄田
入社前には、もっとステレオタイプ的な伝統的大企業のイメージを持っていましたが、意外にそこは無く、オープンな雰囲気を感じました。ただ、歴史の長い会社では形式知化されていない様々なハイコンテキストな情報が存在しており、情報量が多い一方でキャッチできる情報が少ないため、独りよがりな理解やイメージでパフォーマンスを出すことは難しいと感じました。

プロパーの社員が多い中でリーダーシップを取る必要があり、自分のやり方を押し付けてもうまくいきませんし、かと言って受け入れてばかりだと自分がジョインした価値が無くなってしまうので、そのバランス感覚は大事だと思います。
永田
戦略コンサルの方はスタートアップやVC・PEファンド・外資系企業などキャリアの選択肢が多くある中で、貴社ならではの魅力についてぜひお聞かせいただきたいです。
石原
その方が何を求めるか次第だと思います。IXIには、スタートアップのようにこれから立ち上げる事業そのものへのコミットするキャリアパスがあるのに加え、事業が“多産”される仕組みをつくるというアクセラレータやVCの立場に近い関わり方のキャリアパスもあります。後者は、複数の事業を創っていき、世の中を変えていくとか、両利きの経営をリードしていくというマインドの方が向いていると思います。

今の私自身の志向性としては、スタートアップが多数生まれてくる組織をマネジメントする側に興味があるので、これは立ち位置の違いによるかと思います。
縄田
私も継続的に新規事業創出を目指す方にはフィットすると思います。短いスパンで立ち上がる新規事業であればプロジェクトメンバーの能力が一定高ければ成功しますが、当社で取り組んでいる農業やエネルギーのような領域はインフラを敷き直していくようにライフサイクルが長い領域のため、1プロジェクトの失敗や成功だけでは到達できず、次々に新しいプロジェクトが生まれる仕組みが無いと事業を成功させることができません。

そういう仕組みづくりに挑戦したい方であれば、我々の取り組みの意義を理解いただき、魅力を感じてもらえると思います。
入江
最後に、ポストコンサルの方に向けてキャリアアドバイスをぜひお願いします。
石原
ある程度自分が納得できるまでコンサルティングの醍醐味を経験した方には、次の仕事は腰を据えて取り組みたいと心の底から思える仕事を選択いただきたいと思います。

僕自身もコンサルを始めて数年間は多くの学びを得た一方で、色々なことをやる中で飽き性になったのも事実です。この途中の段階でコンサルを辞めてしまうと、その先どこに行っても短期間でキャリアを変えることになるのではないかと思います。

コンサルとして学ぶべきところは一通り学んだと言える段階になれば、今度は「クライアントのもとで本当に価値を出すとはどういうことか」というテーマに興味が向いていくので、ここに想いが至れば次のキャリアでしっかり腰を据えて取り組めるようになると思いますね。
縄田
優秀なポストコンサルの方は、引く手数多で色々なところから声がかかるため、選択肢が多いが故に、自分にとって適切な道を考えるのが難しい環境に置かれていると思います。

その際に、自分の志や何からの価値軸を持っていれば、そこに照らし合わせて判断できますし、仮に次の環境で想定外のことが起こったとしても、自分の価値軸に対して今の環境がどうなのかを客観的に判断できます。ぜひご自身にとってベストな環境を選んでいただければと思います。


構成:神田 昭子
撮影:櫻井 健司

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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