Vol.48
原動力は「義理」と「責任」。自己成長やキャリアアップなどは考えたことがない。関心があるのは、人生の時間をどのように使うか。
株式会社ユーグレナ
取締役副社長COO
株式会社ユーグレナインベストメント 代表取締役社長 リアルテックファンド 代表永田 暁彦氏
公開日:2019.05.13
インタビュアー
入江
藻の一種であるミドリムシ(学名:ユーグレナ)の可能性にいち早く着目し、それを活用した食品や化粧品の開発、そしてバイオ燃料の研究などを行っているバイオテクノロジー企業の株式会社ユーグレナ(以下ユーグレナ)。その経営の一角を担って同社を上場に導き、さらに「リアルテック」の領域に特化したベンチャーキャピタルファンドを起ち上げたのが永田暁彦氏だ。20代半ばで独立系プライベートエクイティファンドからユーグレナ社に移籍した永田氏の、異色のビジネス観や人生観を詳らかにしていく。
新卒で入社したインスパイアで、二人の偉人から大きな影響を受けた。
- 入江
- まずはこれまでのご経歴をおうかがいしたいのですが、永田さんは慶應大学をご卒業されていますが学生時代はどのように過ごされたのですか。
- 永田
- 私は大学時代、実はいきなり留年を繰り返して2年生になるまで3年かかっているんですね。九州の田舎から意気揚々と上京して慶應に入学したのですが、周囲の学生が合コンだなんだと浮かれているのを見て幻滅して……それで大学に通わなくなってしまったのですが、2年経った頃、親から「さすがに大学に行ってくれ」と懇願されて渋々復帰。でも、キャンパスに顔を出してみると、青空の下で麻雀している仙人みたいな学生とか、歌舞伎町でNO.1ホストの学生とか、面白い友人ができて大学生活を前向きに楽しむようになりました。
- 入江
- 卒業後は株式会社インスパイアにご入社されています。新卒でそちらに就職されたのはどのような経緯だったのでしょうか。
- 永田
- 大学1年を3回ダブってしまったので、はなから一般企業への就職は諦めて会計士を目指して勉強していたのですが、2年生の時にキャンパス近くの日吉のダーツバーで飲んでいたら、たまたま隣にいた人と仲良くなり、その方が慶應OBでインスパイアの副社長だったんです。そして交流を深めるうちに「おまえは面白いヤツだな。うちにインターンシップに来ないか」と誘われて……インスパイアはマイクロソフトの元社長だった成毛(眞)さんが起こされた会社で、当時、住友商事の元副社長の芦田(邦弘)さんが会長を務められていたのですが、私は自分の興味の対象外にはまったく無関心で、お二人がいかに凄い人なのか知らないままインターンシップに参加したんです。
- 入江
- インターシップに参加されたことがきっかけで、インスパイアにご入社になられたというわけですね。他の選択肢はお考えになりませんでしたか。
- 永田
- インスパイア以外にも、有名な大手Webサービス企業のインターシップなどにいくつか参加したのですが、自分で言うのも何ですが学生の中では高い評価をいただくことができていて、企業から入社を誘われていました。しかしインスパイアでは思いっきり無能扱いされて……当時、社員が20名ほどだったのですが、みなさん抜群に優秀で、私なんて足元にも及ばなかった。逆にそこに惹かれて、入社させてほしいと希望したのです。
- 入江
- 無能扱いされたことで逆にモチベーションが上がったと。
- 永田
- 特に成毛さんにはボロクソに言われましたね。とにかく頭が良くて、私とは戦闘力が二ケタ違う。成毛さんと接していると自分の無能ぶりを思い知らされるので、できればもう会いたくない(笑)。でも、成毛さんからは本当に大きな刺激を受けました。彼がよく言っていたのは「世界は一部の人間が決めている」と。世界を回しているのは、力のある政治家や経営者など全人口の0.1%に満たない人間。それが現実であり、如何ともしがたいことだから、もし自分が世界を動かしたいと思うなら、そうした人間たちと最速で接触しろと。その成毛さんの言葉は、その後の私の生き方に大きく影響しています。
- 入江
- 新卒で入社されたインスパイアで、永田さんは貴重な出会いをされたわけですね。
- 永田
- 新卒で就職先を選ぶにあたって唯一、私が基準を持っていたのは100名以下の会社に入るべきだということ。組織が大きくなると、自分の上司を自分で選べない。それは非常に大きなリスクだと考えていました。その点、インスパイアは経営陣との距離が近く、私にとってまさに理想の環境でしたね。当時の会長の芦田さんにも多大な影響を受けました。いまリアルテックファンド(永田氏が起ち上げた、地球や人類の課題解決に資する研究開発型の革新的テクノロジーを有するベンチャーの投資育成を目的としたファンド)の顧問をお願いしていますが、芦田さんとの関係の中で私のビジネスパーソンとしての力が大いに鍛えられたと思っています。
ユーグレナの経営陣に純粋に好感を持った。彼らの力になりたいと移籍。
- 入江
- インスパイアの元会長の芦田さんからは、どのような影響を受けたのでしょうか。
- 永田
- 芦田さんは優れた交渉術をお持ちで、いま日本で最強の人脈を築いている方なんです。芦田さんは住友商事の副社長を務められていた頃から、「異業種トップ情報交換会」という私的な勉強会を立ち上げて主催されているんですね。そこには名だたる大企業のトップの方々がプライベートで参加されていて、毎月、経営に関するテーマを持ち寄って自由に議論しているとのこと。「毎月こんな会を開いているんだよ」という話をうかがって、私もぜひその場に身を置いてみたいと思い、まだインスパイアに入社したばかりだったのですが「丁稚奉公するのでその会の事務局をやらせてほしい」と芦田さんに執拗にお願いしたんですね。
- 入江
- 普通の新卒1年目の社員なら、畏れ多くてそこまで踏み込めませんよね。永田さんの行動力には感服します。
- 永田
- だって面白そうじゃないですか(笑)。あと、成毛さんがおっしゃっていた「世界を動かしている人たち」と直に接することのできる機会であり、これを逃す手はないなと。そして私の熱意に芦田さんが応えてくださり、「異業種トップ情報交換会」の事務局として参加させてもらえることになったのですが、そこでの真剣な議論を目の当たりにして視座が大いに上がりました。また、私自身も大企業のトップの方々とネットワークを築くことができ、それはファンドでの資金調達などでも大いに活きています。
- 入江
- 永田さんがいま副社長を務めるユーグレナは、インスパイア時代の投資先だったそうですね。
- 永田
- インスパイアに入社して最初に担当したのがユーグレナの投資案件でした。出資者として我々が経営支援を行うわけですが、研究開発戦略がどうとかマーケティング戦略がどうとか、そこに口を挟んでも「門外漢が何を言っているんだ」と反発を食らうと思ったんです。で、アカウンティングとリーガルは、企業を経営する上で絶対に正しいと主張できることがある。私は最短距離で経営にまで辿りつきたかったので、まずはこの2つを究めようと。大学時代に会計士の勉強をしていたので、アカウンティングの知識はある程度持っていました。それに加えてリーガルの知識をキャッチアップして、ユーグレナに関わる研究論文をすべて読んで、先方が認識していないアカウンティングとリーガルの問題点を指摘してナレッジをどんどん提供していったんですね。いわばユーグレナの社員のように事業に関与し、向こうの信頼を獲得していきました。
- 入江
- 2年目にはユーグレナの社外取締役に就任されていますね。
- 永田
- インスパイアから赴いていた前任の社外取締役の方が退社されて、当時の経営陣が「次は永田にやらせよう」と。当時私はまだ新卒2年目で、こんな若造が投資先に送り込まれるのは異例だったと思います。なぜ私が選ばれたのか、成毛さんが怖かったのでその理由は聞けませんでしたけど(笑)。
- 入江
- そして4年目にそのままユーグレナに移籍されています。ユーグレナへの入社をご決断されたのは、どのようなお考えからだったのでしょうか。
- 永田
- ずっとユーグレナの社長の出雲(充氏)から「うちに来ないか」と誘われていたんです。実に尊敬できる人間で、彼の力になりたいと強く思ったことが大きかったですね。
- 入江
- 出雲さんのどこが凄いとお感じになられたのですか。
- 永田
- 出雲は本当に世界を変える男だと思っています。なぜなら成功するまでやり続けるからです。100年かかってもミドリムシからバイオ燃料を作ると真顔で語っている。彼が醸すオーラは圧倒的で、私も知らず知らず彼の口調を真似ているところがある(笑)。出雲以外の経営陣も同世代で魅力的な人間ばかりでした。我々の世代の経営者はITの領域で成功しているケースが多いのですが、彼らはリアルなモノづくりで社会に貢献していこうという志を持っていて、そこにも共感できた。でも、出雲も含めてみんなフォワードタイプで、経営陣にディフェンスのポジションを担える人間がいなかった。そこに自分がハマるんじゃないかと感じたことも入社を決めた理由です。
もしいま自分が死んでも、100人ぐらいは残された家族をきっと助けてくれる。
- 入江
- 尊敬できる仲間とともに、社会に貢献する事業に挑むことができる。それがユーグレナへの経営を参画された理由なのですね。
- 永田
- ええ。でもその前提として、インスパイア時代の3年目にユーグレナ絡みの大きなディールをまとめあげて、会社に多大な利益をもたらすことができたんです。それで恩返しができたから、もうここを離れてもいいかなと。インスパイアは新卒の私を拾ってくれて、本当にいろんなものを与えてくれたので、それを返し切るまでは辞めたくないと思っていました。
- 入江
- そうしたお考えもお持ちでいらっしゃったのですね。ユーグレナに入社されてからはどうでしたでしょうか。
- 永田
- 私は2010年の春にユーグレナに入社し、その年末には上場する計画が進んでいました。しかし、社内の管理部門にトラブルが起きて経理が機能不全に陥ってしまい、私がCFOのような役割を担って上場準備作業を立て直すことになりました。経理はまったくの素人だったものの、必死でキャッチアップして管理部門を統括し、3カ月ほどで上場に向けての体制を作り上げて何とかIPOを果たすことができた。当時私は27歳でしたが、その時期はほぼ会社に寝泊まりしていましたし、人生でいちばん猛烈に働きましたね。
- 入江
- 20代後半でそこまで結果を出せる人間は世の中にそうはいないと思います。その時、何が永田さんを突き動かしていたのでしょうか。
- 永田
- 「義理」と「責任」でしょうか。インスパイアにはこちらからお願いして採用してもらった義理があるので、責任を持ってその恩義にはきちんと報いたい。出雲がこんな私を認めてくれて、一緒に事業がしたいと誘ってくれたので、その責任に応えて彼の成功を全力で支えたい。私の人生の原動力はそれだけ。「自己成長」とかどうでもいいんですよ。よく「自分のスペシャリティを磨いてキャリアアップしたい」とか聞きますが、その感覚が実はあまりわかっていません。先ほどもお話ししましたけど、私は上場準備の際に3カ月で経理を統括することになりました。その気になれば必要なスペシャリティは短期間で得られるのではないかと考えています。あと「お金」に対してもあまり執着がないです。ストックオプションも持っていません。
- 入江
- ポジションや報酬への関心が高い人が多いなか、永田さんのような方は本当に異色だと思います。
- 永田
- 「お金」の価値って何なんなのかな?と。 実はユーグレナがIPOした時、私も少し株を持っていたので、それを一度現金化して思いっきり使ってみたんです。超高級マンションに住んでみるとか、ファーストクラスで旅行して豪遊するとか、世間の人がイメージする「上場して億万長者になったらやってみたいこと」を実践してみたんですが、私はそこに価値を結局見出せなかった。たくさんお金を使っても楽しくないんです。人が「もっとお金が欲しい」と掻き立てられるのは、誰かのマーケティングのせいだと気づいたんですね。そこから脱して「自分にとって何が大切なのか」という本質と向き合えば、他人と自分を比べるようなこともなくなり、きっと幸福度が増すと思うんですね。
- 入江
- お金を儲けること自体には興味がないということでしょうか?
- 永田
- それよりも「自分の人生の時間をどう使うか」のほうに私は興味があります。あと、お金に対する価値観が変わったのは、リアルテックファンドを組成したことも大きいですね。自分が100億円持っていなくても、夢の実現に向けて100億円集めることができる。それを投資することで、自分に関わる人みんながハッピーになれる。いまこれだけは自信があるのですが、もし私が明日死んでも、私と関わりのある100人ぐらいは残された嫁と息子を見返りなく助けてくれると思うんです。最終的にはそれが人間としてのアセットではないかと。要は人生においてどれだけ徳を積んでいくかが大切であり、私はそれを「徳指数」と呼んでいるのですが、この指数を高めていくような生き方をしたいのです。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。