Vol.71
CxOとして投資先への転籍を前提とした、経営人材の育成・輩出プログラムを展開。有能なポストコンサルの力を募り、可能性を秘めた企業を変革することで社会にインパクトをもたらしていきたい。
ベインキャピタル・ジャパン・LLC
ベインキャピタル・ジャパン・LLC / オペレーティングパートナー吉川拓未氏
株式会社プロテリアル / 特殊鋼事業部 企画部部長 兼 経営企画戦略本部 経営改革部部長西牧修平氏
公開日:2025.05.19
インタビュアー
入江、永田
世界最大級のプライベート・エクイティ・ファンドであり、日本でも大きな存在感を示すベインキャピタル。同社はファンド業界の中においても、特に投資先企業の経営支援に注力することを柱に掲げており、そのための経営人材の拡充・強化を目的とした「ベインキャピタル・ジャパン・エグゼクティブ・プログラム(BCEP)」を展開している。ポストコンサルのキャリアとして極めて魅力的な選択肢となりうるこのBCEPについて、ベインキャピタルでオペレーティングパートナーを務める吉川氏と、実際にBCEPを活用して大手製造業に転籍したコンサルタント出身の西牧氏に詳しくお話を伺った。
投資先のバリューアップがベインキャピタルの使命。そのための経営能力を転籍後にスムーズに発揮するのがBCEP。
- 入江
- BCEPについてお伺いする前に、まずはお二人のご経歴を教えていただけますか。
- 吉川
- 私はMBAを取得後にベイン・アンド・カンパニーに入り、いまから11年ほど前にベインキャピタルに参画しました。ベインキャピタルの組織は、投資実行をリードするディールチームと投資後のバリューアップをリードするポートフォリオグループとで、注力する役割を分けながら投資活動を行っていますが、入社後しばらくはディールチームに所属し、現在はポートフォリオグループに移籍して投資先企業の経営改善にあたっています。
- 西牧
- 私は新卒で大手自動車メーカーに入社し、3年ほどエンジニアとして開発業務に携わりました。その後、外資系の経営コンサルティングファームに参画し、主に製造業向けの案件を担当、また在職中にMBAを取得しました。帰国後、ファンド傘下の自動車部品メーカーに経営企画のポジションで入社し、そちらに3年ほど在籍した後、2022年にベインキャピタルに参画しました。
- 入江
- 西牧さんはBCEP前提でのご入社ですが、以降どのようなキャリアを重ねていらっしゃるのでしょうか。
- 西牧
- ベインキャピタル入社後は、まずは吉川さんと同じポートフォリオグループに所属し、投資先の大手素材メーカーであるプロテリアル(旧日立金属)の経営改革に2年ほど関わりました。その後プロテリアルへ転籍し、経営改革部部長として全社の経営改革をリードするとともに、現在は当社で最も売上規模が大きい事業部である特殊鋼事業部の企画部部長を兼務しています。
- 入江
- それではあらためて、BCEPを設けた背景についてご説明いただけますか。
- 吉川
- BCEPは、端的に言えば経営人材を育成・輩出するためのプラットフォームです。投資先にCxOや本部長、部長などのマネジメントのポジションで転籍する前提でベインキャピタルに入社いただき、ポートフォリオグループで投資先企業の経営変革に携わった後、投資先に転籍して経営チームの一員となります。
もともとベインキャピタルは、投資先のバリューアップに注力しているPEファンドであり、投資先の企業価値を長期的に向上させることで、ともに大きなリターンを得ようというのが我々のフィロソフィーです。
そうした理念のもと、ポートフォリオグループのメンバーが投資先に深く関わることで、先方の経営陣と一体となって経営改善や事業拡大を図っています。そのための体制を強化するなかで、経営人材を志向する方のための最適なキャリアトラック構築の必要性を強く感じたことが、BCEP設立の背景です。
- 入江
- BCEPの対象として、コンサルタント出身の方も強く意識されているのでしょうか。
- 吉川
- はい。コンサルタント出身の皆さんの中には、事業会社で自ら責任をもってビジネスを動かし、ご自身のキャリアを高めていきたいという意向をお持ちの方がたくさんいらっしゃるかと思います。
一方でいざ事業会社に転職すると、収入やポジションの面で中々思うような評価を得られなかったり、あるいは異質なカルチャーのなかで十分にアクションできず、成果を上げられずに苦悩されているケースも多々見受けられるかと思います。
そのギャップをこのBCEPで埋めたいという狙いもあります。先の説明の通り、BCEPとしてご入社頂く方は、まず株主の目線から企業価値向上を図るために何をすべきなのかを直接株主側の立場に立って経験頂き、そのまま株主のバックアップのある状態で投資先に転籍をすることで、投資先に移籍してもスムーズに経営を担っていくことが可能となります。
株主として経営に参画するからこそ、グリップを効かせた改革を実行できる。それがコンサルタントとの大きな違い。
- 入江
- いま吉川さんがおっしゃった通り、コンサルタントから事業会社への転身を望まれる方は多いのですが、年収や役割が下がる恐れもあり、希望通りのキャリアを得るのはなかなか難しいのが実情です。そのリスクを最小化し、経営人材へのパスを確約するBCEPはとても優れたプログラムだと思います。西牧さんは、このBCEPを通してすでにプロテリアルに転籍されていますが、ベインキャピタルでどのようなキャリアを積まれたのか、具体的にお話しいただけますか。
- 西牧
- 最初の1年間は、ポートフォリオグループでプロテリアルの経営改革を担うチームに所属しました。そこでチームのメンバーとともに、プロテリアルをバリューアップさせる具体的な施策を喧々諤々議論し、投資家の目線で優先順位をつけ、投資先のカウンターパートである役員や経営企画の方と一緒に推進。
その次の1年は、ベインキャピタルに籍を置いたままプロテリアルに出向し、経営改革部部長というポジションをいただいて引き続き経営改革を推し進め、2年の助走期間を経て3年目に転籍しました。以降も、吉川さんをはじめポートフォリオグループのメンバーと密に議論しながら、プロテリアルの経営にあたっています。
- 入江
- 西牧さんは以前、コンサルタントとしてクライアント企業の経営を支援した経験をお持ちですが、ベインキャピタルで株主の立場から経営に関与されて、どこに違いを感じ、どんな知見を得られたのでしょうか。
- 西牧
- 端的に申し上げると、企業価値を最大化するという目線で、どんな策をどんな順で実行するかという思考が求められることが大きな違いです。コンサルタントというのは、基本的に与えられたテーマ、限られた時間のなかでバリューを最大化することが使命であり、そこにフォーカスすることが求められます。
一方、ベインキャピタルでは目を向けるべき対象がきわめて幅広く、企業全体を見渡しつつ、5年10年もしくはそれ以上の時間軸で、いま本当にやらなければならないことは何かを判断し、企業価値の最大化を図っていかなければなりません。そして、コンサルタントと圧倒的に異なるのは、やはり当事者意識。第三者の立場で支援するのではなく、自ら事業を動かして結果責任を負わなければならず、そのマインドセットが最も異なる点でしょうか。
- 吉川
- 少し補足をさせていただくと、いま西牧さんが言及された当事者意識というのは、やはり意思決定に直接関わるからこそ強く覚えるものだと思います。コンサルタントも自らが提供する知見でクライアントの経営に関与する側面もあるかと思いますが、最終的に意思決定するのはクライアントです。我々は株主としてその意思決定側に立ち、コンサルタントの知見も一つの要素として活用しながら、企業価値を最大化するためには何が必要なのかを考え、経営陣とともに決断していくことになります。
- 入江
- 実際にBCEPを活用されて、西牧さんがお感じになるこのプログラムの魅力を聞かせてください。
- 西牧
- BCEPを通じて事業会社でのキャリアを加速できることが、まず大きな魅力だと思います。私は過去に外資系コンサルから自動車部品メーカーへの転職を経験していますが、その時はまだ30代で、特に大企業では私のような若手がいきなり経営レベルの職位に就くのは難しく、ポジションを下げて入社しました。そうした状況のなかで周囲の信頼を勝ち得たことで幸運にもプロモーションしていくことが出来ましたが、カルチャーにフィットしなければ埋もれてしまうリスクもありました。おそらく、コンサルタントから事業会社へ転職した方の多くは、多かれ少なかれこうした苦労に直面しているのではないかと思います。
その点、BCEPは投資先企業の経営チームに入ることが前提となっていますので、ポジションを下げて転職する必要はありません。そして、株主とアラインした上で改革を進めるためグリップを効かせやすくなります。それは事業会社で結果を出す上で、大きなポイントだと思いますね。
- 吉川
- 経営を改革する上でやるべきことは、それまでに誰かが思い付いているようなケースも多く、ウルトラCの秘策ではなく、みんな分かってはいるけれども、なかなか実行に移せないという場合も多いです。
我々のミッションはそれをアンロックし、企業価値向上のためにやるべきことを実行に移すところが大きいと考えています。事業会社の経営企画に転職したコンサルタント出身の方が、いくら優れた計画を立ててもなかなか周囲が動かないという話をよく耳にしますが、我々は株主として、会社や経営陣と同じ船に乗った立場で、やるべきことをやるべきと言える。BCEPのメンバーは単身会社に入っていくのではなく、そうした株主からのバックアップのある状態で投資先の経営に関わっていくので、よりパフォーマンスを発揮しやすい環境にあると言えます。
そして成果を上げると、周囲からいっそう認められるようになって担える役割も広がっていく、そのような循環のなかで主体的に活躍できるのもBCEPならではだと思います。
- 西牧
- あとは経営のスキルセットを獲得していく上で、コーポレート側だけではなく事業側でキャリアを積めるのも魅力ですね。私はより事業に近い立場で変革に携わりたいという想いから、事業部の企画部長を兼務させてもらっています。事業部ではPLやオペレーションの細部まで目を向けることが求められ、また自らの意思で事業を動かすオーナーシップもより強く求められます。そのような経験を通じて将来CxOとして更に大きな変革を進めるための引き出しが増えていくのも大きなメリットです。
プロフェッショナルな経営者となり、企業を変え、日本を変える。そんな志ある方に絶好のプログラム。
- 入江
- BCEPの後に投資先へ経営人材として転籍する際、その企業はどのように選定されるのでしょうか。
- 西牧
- 私の場合は特殊なケースで、ベインキャピタル入社時からプロテリアルへの転籍を前提に当社の経営支援に関わっていました。通常は複数社の経営支援に携わり、そのなかから転籍先が決定されています。
- 吉川
- 転籍先はその方の意向を尊重しています。西牧さんの場合、ご自身のやりたいことが明確でしたのでプロテリアルに即決定しましたが、ベインキャピタルの投資先はグローバルで複雑性の高いラージキャップの投資案件から、事業承継などオーナーと一緒に経営に臨むミッド・スモールキャップの案件まで多種多様であり、オポチュニティはたいへん豊富です。
そのなかから、ご自身が求めるキャリアに沿った投資先の支援をいくつか経験していただき、フィット感なども確認しながら協議の上で転籍先の企業を決定しています。
- 入江
- コンサルタント出身者で、このプログラムにフィットしやすいのはどんなタイプの人材だとお考えですか。
- 吉川
- やはり将来のキャリアとして、事業会社でプロフェッショナルな経営者として活躍したいというアスピレーションのある方でしょうか。そうした志のある人には、BCEPは非常にフィットするはずです。
我々の投資先は、経営改革によってバリューアップを図っていく余地の大きい企業が多いので、本当にチャレンジしがいのあるプログラムだと思います。
- 西牧
- 加えて私が思うのは、コンサルタントとしてのハードスキルはもちろんのこと、それ以上にソフトスキル、すなわちコミュニケーション力に長けた人でしょうか。
先ほど、我々は株主のバックアップのある立場なのでグリップを効かせやすいとお話ししましたが、そうは言っても、改革を進めていく上では投資先の従業員の方々から仲間として認めていただき、思いを共有していなければ組織は動かない。
私自身も当初は少し苦労しましたが、さまざまな経歴や価値観を持つ方々をリスペクトしつつ、周りを巻き込んで物事を動かしていくというウェットな部分も含めたリーダーシップを発揮できる、そんな方が向いていると思います。
- 西牧
- また投資先の組織力学をきちんと理解して、誰を押せば会社が動くのかということを掴む「嗅覚」みたいなものがやはり必要ですね。プロフェッショナルファームで求められるロジカルでシャープな思考とはまた異なるスキルですが、いまお持ちでなくても入社後に会得していくことが求められます。
- 入江
- それでは最後に、ポストコンサルのキャリアをお考えのみなさんに向けて、お二人からメッセージをいただけますでしょうか。
- 西牧
- BCEPを経て投資先の経営を担うようになり、あらためて実感するのは、いわゆるJTC(伝統的な日本企業)にはまだまだ成長の原石が隠されており、それを磨けばグローバルに飛躍できる可能性が大いにあるということ。コンサルタント出身の方が、いままでの経験を最大限に活かしてこうした企業の力を引き出していくことが、結果的に日本の社会にインパクトをもたらしていく。
それを果たせる経営人材をスピーディーに輩出していくのがBCEPであり、日本をより良く変えたいという志のある方にぜひ参画していただきたいですね。
- 吉川
- 私も、長年にわたって投資先の経営支援に携わってきた経験から、ポストコンサルの方々は事業会社で大いに活躍できると思っています。
BCEPはその活躍をさらに加速させるプログラムであり、投資先の経営チームに入ってバリューアップを成し遂げた後、そのままCxOとして企業を率いていく道も選択できますし、あるいはいったんベインキャピタルに復帰し、別の投資先に移ってまた経営改革を手がける道もある。みなさんのキャリアを豊かにするために、是非このBCEPを活用していただければと思っています。
構成:山下和彦
撮影:波多野匠
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。