Vol.70
日本のヘルスケアシステムを、 データとICTの力で救う。そのための事業を 白地のフィールドに描き、覚悟をもって実行できる、 そんなポストコンサルの人材の力に期待。
株式会社JMDC
公開日:2024.12.19
インタビュアー
入江、工藤、永田、矢島
「健康で豊かな人生をすべての人に」というミッションを掲げ、医療ビッグデータが持つ可能性を追求し、人々の健康に貢献する新たな価値を生み出して社会に還元していく。そんな事業を展開し、ヘルスケア領域で力強く成長を続けている企業がJMDCだ。同社を現在率いる戦略コンサルタント出身の野口亮氏に、これまでのキャリアやJMDCでキャリアを積む醍醐味などについてお話を伺った。
パートナー昇進を目指すか、ユニークなヘルスケア事業の経営に携わるか。魅力に感じたのは後者だった。
- 永田
- まず初めに、野口さんのこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますか。
- 野口
- 私はもともと医師を志して医学部に進学しましたが、卒業後はボストン コンサルティング グループ(BCG)に参画し、ヘルスケア領域の経営コンサルティングに10年ほど携わりました。その間、コンサルタント以外のキャリアの可能性を私なりに探っていて、プリンシパルに昇格後、JMDCの親会社であったノーリツ鋼機に2016年に移籍。BCGの同期がノーリツ鋼機に先に入社していて、「面白い会社があるよ」と声をかけてもらったんですね。当時のノーリツ鋼機は事業ポートフォリオの変革を進めていて、ヘルスケア領域のユニークな企業をM&A で次々と傘下に収めていました。
JMDCもそのうちの一社で、これまで培ってきたヘルスケア領域の知見を活かしながら、リアルな事業に関われるチャンスが多そうだと転職を決意しました。ノーリツ鋼機に入社後は、すぐに投資先のマネジメントを任され、遺伝子検査や再生医療のバイオベンチャーの代表に就任。その後、ノーリツ鋼機が徐々にヘルスケアから別の領域にシフトしていく流れもあって2020年にJMDCに転籍し、製薬企業向けの事業部門の責任者などを務め、2023年から代表取締役に就いています。
- 永田
- そもそも野口さんは、社会に出るにあたって、どうして医師ではなく経営コンサルタントとしてのキャリアを選ばれたのでしょうか。
- 野口
- 医学部での病院実習で、病院内での業務に大きな非効率性を感じたことがきっかけでした。今でも覚えているのは、医師になって10年目ぐらいの先生が、ずっと残業して事務作業をされていたんですね。何をされているのか尋ねると「カルテに記入した内容をサマリーに転記している」と。
まさに医療の現場を担うバリバリの先生が、診療に直接関わらないところに労力を割かれていて、医療現場の効率性に問題意識を覚えました。患者さん一人一人と向き合うことももちろん大切ですが、こうした医療現場のオペレーションを変革すれば医療全体をより良くすることができる。そこに足りないのは「経営」だと考え、経営を学んで医療の現場に還元したいとコンサルタントを選んだのです。
- 永田
- 先ほどBCGではプリンシパルにまで昇格されたとのお話でしたが、次はパートナーに昇進するという選択肢もあったなかで、どうして敢えて事業会社への転身を決断されたのでしょうか。
- 野口
- コンサルタントはだいたい3年ぐらいでポジションが上がっていくのですが、その都度、外部の事業会社でのオポチュニティとBCGでのキャリアのどちらが自分にとって面白そうかは考えていました。プリンシパルに昇格した時も同様に検討していたところ、ノーリツ鋼機という会社の事業ポートフォリオがとても面白そうで転職を決意しました。
あと、このままパートナーに昇進すると、しばらくはファームの運営にコミットする必要がある。おそらく5年から10年くらいはキャリアチェンジしづらくなるだろうし、いま決断しないとコンサルタントとしてずっとキャリアを重ねていくことになる。そんな将来よりも、目の前にある新しい機会のほうが私にとって魅力的に映った感じでしたね。
- 永田
- 野口さんは戦略コンサルタントを10年経験されて事業会社に移られ、すぐにM&A先のマネジメントを託されたということですが、実際いかがでしたか。
- 野口
- 入社早々、M&Aでグループ入りした40名ほどのヘルスケア企業にマネジメントイシューが生じ、私が代表として赴くことになりました。いきなり経営を託されプレッシャーはありましたが、その企業が外部からの人材の受容度が高く、私のことを快く受け入れてくれたので、その点でストレスを感じることはありませんでした。また、ヘルスケアの領域なので土地勘もあり、事業を伸ばすためにどうすべきかという整理も比較的スムーズに進められました。
ただ、プロフェッショナルファームと決定的に異なるのは、3カ月から半年ぐらいのプロジェクトで次々と課題を整理し解決策を検討するのではなく、ひとつの事業目標を達成するために日々のオペレーションを回していくことが求められる。そうした組織マネジメントは経験したことがなく、私にとっては大きなチャレンジでしたね。
- 永田
- 経営者として組織マネジメントにあたる上で、具体的にどのような点に苦労されたのでしょうか。
- 野口
- これはコンサルタント出身者が比較的陥りがちな状況だと思うのですが、プロフェッショナルファームにいた時の感覚で合理的な整理と解決策を提示するだけではなく、如何に実行まできちんと徹底できるかがとても重要です。コンサルタント時代にも頭では分かっていたつもりでしたが、実際にやろうとすると色々な苦労はありました。
- 入江
- コンサルタントから事業会社に転身すると、おそらくいま野口さんが言及されたような未体験の課題に対応していかなければなりませんが、そこにアジャストできる人とできない人の違いはどこにあるとお感じですか。
- 野口
- コンサルタント出身者には、戦略を描くことを繰り返す中で、実行まで含めて事業の現場で実践したいという想いを持つ人が多いと思います。私も最初はそんな心持ちで臨んだのですが、机上で戦略を掲げるだけでは組織は動かない。その実行をどれだけ泥臭くやれるかが大事だと学びました。
日々のオペレーションで困っていることがあれば、ただ理論的な解決案を描いて提示するだけではなく、自ら現場に入り込んで業務の解像度を上げ、リアルな観点から改善していく。そうした取り組みを丁寧にコミュニケーションを取りながら進めることで、社内の信頼を獲得していくのであり、そうした泥臭いプロセスを厭わない人が事業会社にアジャストでき、経営人材へ育っていくのだと思います。
- 永田
- 野口さんにとっては、転職後すぐにマネジメントを担う機会が提供されたことも、その後のキャリア形成において大きかったのではないでしょうか。
- 野口
- そう思います。早いタイミングでオーナーシップをもって事業を見るという経験をさせていただけたのは、とても良かったと実感しています。いまJMDCもグループ企業を多数抱えており、またM&Aも果敢に実行しています。
社内・社外を問わず若い方にも、私がかつて経験したようなマネジメントの機会を積極的に提供していきたいと考えています。そして、経営人材として育った一人一人が、当社ならびにヘルスケア業界の未来を牽引していって欲しいと願っています。
ヘルスケア領域における多種多様かつ膨大なデータを集積。このデータ基盤の上でどんな価値を生み出していくのか、真価が問われる。
- 永田
- では、あらためて野口さんが代表を務めるJMDCをご紹介いただけますか。
- 野口
- 我々は「健康で豊かな人生をすべての人に」というミッションを掲げ、それをデータとICTの力で実現することに挑んでいる企業です。
具体的には、健康保険組合や医療機関などのステークホルダーの方々からさまざまなヘルスケアデータをお預かりし、ステークホルダーに還元していくサービスを提供すると同時に、これらのデータを活用して世の中の人々の健康や、医療に貢献するサービスやソリューションを広く提供しています。
最初はアカデミアで我々のデータを疫学的な研究などに利用いただくところからスタートしましたが、現在では提供できる価値が大きく広がり、製薬会社や生命保険会社などのお客様にもデータを活用いただき、疾患や薬剤についての使用実態の調査・研究や、保険商品開発などの面で支えていく企業へと発展しています。
- 永田
- ヘルスケア領域では、データ利活用ビジネスを展開している企業も多数存在していますが、御社の競合優位性はどこにあるとお考えですか。
- 野口
- 我々の強みは、長年にわたりヘルスケアデータ向き合ってきたなかで集積した圧倒的なデータ量に加えて、顧客・ステークホルダーからの声に耳を傾けデータの高い品質を維持し続けていること、データを適切に扱い新たな価値を創造するケイパビリティだと考えています。
データビジネスの世界は”Winner Takes All” であり、それぞれのデータの領域でNo.1であることが圧倒的な優位をもたらします。データのボリュームが大きければ大きいほど、そのデータを使って解決したい課題の解像度が高くなり、二番手以下のデータを利用する価値が見出せなくなってしまいます。
我々は2002年に創業し、いまでは全国で約400ほどの健康保険組合と取引があり、毎月2000万近くの方々のレセプトや健診のデータをお預かりしています。そのボリュームは競合の追随を許さず、我々が築き上げたデータベースは、言い過ぎかもしれませんが私としては社会インフラに近い存在となりつつあると感じています。
また、社内に「データベースマスタチーム」と呼ばれる専門の組織を設けて日々データの整備を行うことで、データの高い品質を保持しています。これは我々が長年にわたりヘルスケアのデータを扱う中で、我々だけでなく健康保険組合や医療機関、製薬企業や保険会社といったステークホルダーの方々からのお声をいただきながら試行錯誤を繰り返してきた結果、相当な知見が溜まっており、データの品質もお客様からご評価いただいている大きなポイントです。
さらに、このデータを活用して新たな価値、用途を創造しアウトプットを提案することができる方々が、データの持つ求心力、具体的には我々のデータを扱うことに魅力を感じて集まってきてくれています。その結果、機械学習などの新しいテクノロジーを含め、データを扱うケイパビリティも向上しています。
- 工藤
- 御社の特徴として、M&Aによっていろいろなヘルスケア企業を傘下に収め、グループとして業容を拡大していることも挙げられます。この経営戦略について、野口さんはどう捉えていらっしゃいますか。
- 野口
- そもそもヘルスケアにまつわる課題というのは非常に幅が広くて、健康保険組合や医療機関、そして製薬企業がそれぞれ多種多様な悩みを抱えています。
そんななか、我々は膨大なデータや課題解決のためのコアのアセットやノウハウは有しているものの、単独ですべてに対応していくのはきわめてハードルが高い。
そこで、ヘルスケア関連のさまざまな企業にグループ入りしていただくことで、扱えるデータの幅を広げつつ、解消できる課題も増えていくと考えています。JMDCはグループ全体でヘルスケアに貢献するエコシステムを作ろうとしており、今後も必要に応じて積極的にM&Aを行っていく方針です。
- 永田
- これからJMDCが目指す姿について、野口さんはどのようにお考えですか。
- 野口
- 先ほど申し上げた我々のミッションである「健康で豊かな人生をすべての人に」を実現していく上で、取り組まなければならないことは数え切れないほど沢山あります。すでに、我々が抱えるヘルスケアデータは業界内で圧倒的なボリュームを誇っていますが、まだ当社と取引いただいていない健康保険組合や医療機関の方々とも繋がり、いっそう多様なデータのポートフォリオを構築していきたいと考えています。
そして、このデータをいかに社会価値に変えて還元していくかということが、我々にとっての今後の大きなテーマです。製薬業界に向けて膨大なデータから新たな知見をもたらしていくことはもちろん、健康保険組合などの保険者向けのソリューションであったり、医療機関の診療の質と効率を向上するソリューションなど、さまざまな領域で我々のデータを利活用できる余地は大いに残されています。
そしてゆくゆくは、個々人の健康に直接アプローチするサービスも生み出していきたい。こうして、データ利活用によって生み出される価値をさまざまなステークホルダーに還元していくことが、我々にとっての成長機会であると捉えており、まだまだ事業は大きく拡げていくことができると考えています。
JMDCは、日本の医療を変える可能性を秘めた企業。きっと、ここでしか得られない経験がある。
- 永田
- かつての野口さんのようなコンサルタント経験者がこれからJMDCに参画し、ここでキャリアを積む魅力や得られる成長機会について、ご自身のお考えを聞かせてください。
- 野口
- 魅力は、我々が圧倒的なボリュームのデータ、そのデータを活用するデータサイエンスの能力を有していること、また、こうしたアセットを活用して、自由に絵を描ける事業領域がたくさん存在していることだと思います。
我々のデータは、社内のデータサイエンティストの方々に言わせると「宝の山」だそうです。ヘルスケア領域では特に、データを活用したソリューションに大きな可能性があると考えています。
JMDCでは、他ではアクセスできないデータと専門家集団のノウハウを活用して、様々な事業を検討、提案ができます。ヘルスケアという社会課題のど真ん中の領域で、こうした事業に取り組むことができるというのは、当社ならではの魅力だと思いますね。
- 永田
- 早くから企業経営に携われるチャンスも多いのでしょうか。
- 野口
- ええ。グループ会社のマネジメントを担える機会はふんだんにあり、若手のメンバーも各社の経営に参画しています。その年次では、普通の企業ではなかなか得られないマネジメント経験ができることも当社の魅力です。
マネジメントのキャリアが浅い人材に対しては周囲がサポートする体制も整ってきており、まず場を与えて経営人材を育てていくというのが当社の思想です。あと、JMDCは私も含めてコンサルタント出身者が多数活躍しており、プロフェッショナルファームから移ってきても、それほどカルチャーギャップなく活躍できると思います。本当にチャンスは豊富に転がっているので、ぜひチャレンジしていただきたいですね。
- 矢島
- いまコンサルタントとして奮闘されている方のなかには、事業会社でのキャリアに興味をお持ちであるものの、果たして自分にゼロイチの事業開発ができるだろうかと逡巡している人もいらっしゃるかと思います。そうした方々に野口さんから何かアドバイスをいただけますか。
- 野口
- プロフェッショナルファームでコンサルタントを務められているような方であれば、みな事業開発の能力はお持ちだと思います。マーケットを分析し、戦略を立案して、そのためのチームを組成する。
あとは「絶対にこの事業を起ち上げて軌道に乗せる」と心に決めて、最後までやり切るかどうか。うまくいくかどうかは、その人の覚悟によるところが大きいと思います。我々のグループの中の創業者と話していても、事業を起こすタイミングで成功する確信を持っているケースは限定的ですが、自分は絶対にこれを成し遂げたいという強い信念があり、それが原動力となっているケースが多いです。
事業開発を志向される方は、自身がコミットできるという領域・テーマを見つけて、思う存分チャレンジできそうな環境を探し出し、そこで失敗を恐れずフルスイングするのが成功への一番の近道だと思いますね。
コンサルタントとしての習性が身についている方は、事前にリスクをすべて把握した上で物事に取り組みたくなるものです。私もそうでしたが、実際に事業開発や企業経営に携わっていると、そうした姿勢では絶対にうまくいかない。
そうした意味で、コンサルタントで得た知識やスキルは生かしつつ、マインドは変える必要はあると思いますね。ただ、そのマインドは変えられると思いますし、現にそうやって事業責任者になったコンサルファーム出身者が当社には多いです。
たとえば、数年前に入社した若手の元コンサルタントが、今では健康経営領域や金融機関領域の事業開発責任者を担っています。さらには海外新規事業開発に向かったメンバーもいます。そういったメンバーを次々に輩出していける企業であり続けたいですね。
- 永田
- では最後に、この記事を読まれている方々に向けてメッセージをお願いします。
- 野口
- 私は、これまでのキャリアのなかで実に多くのヘルスケア企業と関わってきましたが、率直にJMDCが最も面白い会社だと感じています。ヘルスケア企業が掲げるミッションというのは、どの会社も似たり寄ったりにみえるかもしれません。
しかし「健康で豊かな人生をすべての人に」というミッションをJMDCであれば実現できると信じています。先ほどお話ししたように、もはや社会のインフラとも呼べるヘルスケアデータを抱えていて、それを高度にマネジメントできる体制も整っていて、データサイエンスをはじめとするテクノロジーのケイパビリティも有している。
JMDCでなければ提供できないソリューションがたくさんあり、極言すれば、崩壊しかけていると言われる日本のヘルスケアを変えられる、そんな民間企業があるとしたらJMDCをおいて他にはない。そのぐらい私はこの会社のポテンシャルに魅せられており、きっと他では味わえない経験ができると思います。興味をお持ちの方はぜひ一度、当社の門を叩いていただきたいですね。
構成:山下和彦
撮影:波多野匠
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。