Vol.56
日本を代表する経営者から直接相談いただけるのは、コンサルタント冥利に尽きる。日本企業でも「組織人事課題=経営マター」となった今、事業戦略視点×エグゼクティブサーチ×豊富なアセスメント方法論で攻めの人事組織を創出する。
コーン・フェリー・ジャパン株式会社
コンサルティング部門リーダー / シニア・クライアント・パートナー柴田彰氏
公開日:2020.10.30
インタビュアー
入江・永田
グローバルな組織コンサルティングファームとして、クライアントの組織構造やポジションの設計、人事制度の構築、社員エンゲージメントの向上、経営者をはじめとするリーダーの育成や採用支援など、組織と人に関する幅広いコンサルテーションを行うコーン・フェリー。その日本法人であるコーン・フェリー・ジャパンでコンサルティング部門責任者を務める柴田彰氏に、同社の魅力についてお話をうかがった。
お客様の人事組織課題だけでなく、事業戦略を理解した上で先手を打つ。
- 永田
- まず初めに、柴田さんのこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますか?
- 柴田
- 新卒でプライスウォーターハウスクーパースに入社し、サプライチェーンのSAP導入や業務設計コンサルティングを約2年間経験しました。IBMによる買収後、私はシステムがやりたいわけではなかったので、戦略コミュニケーションで人に影響を与えるコンサルティングが面白そうだと思い、友人が働いていたフライシュマン・ヒラードに移りました。その後、ビジネスコンサルティングに軸足を戻そうと考えた時にシステム系の案件が多い総合系ファームやハードな働き方の戦略ファームは違うと感じ、論理だけでは割り切れない人事組織領域に憧れもあって2005年にヘイコンサルティンググループにジョインしました。当時は成果主義ブームの名残でジョブ型人事制度導入案件の引合いも多く、仕事基準の人事制度設計からスタートして、次に手がけたのは人材アセスメントでしたね。個人がどういう強みや弱みを持っているのか能力・動機・性格・適性など多面的に因数分解を行い、分析結果を提供していました。仕事基準の人事制度設計もコンピテンシーも、旧ヘイグループが強いメソッドを持っていた領域です。その後、日本の組織やマーケットも成長して課題も複雑化し、グローバル化の支援や組織の再設計など領域も広がり多様化してきています。
- 永田
- なるほど。コーン・フェリーについてもお聞かせいただけますか?
- 柴田
- 元々はエグゼクティブサーチの会社であり、限られたターゲットで劇的にはビジネスが拡大しない中で、成長のためにコンサルティング事業を持ちたいという野望がありました。心理学的な統計学の手法を持つPDIやローミンジャーの買収に加えて、もう一歩踏み出したいとヘイグループを買収したというのが経緯です。エグゼクティブサーチは経営者とパーソナルな関係を築く仕事であり、それをテコにコンサルティング・サービスも提供できればよりシナジーが生まれるのではという戦略ですね。当社はエグゼクティブサーチとアドバイザリーがあり、エグゼクティブサーチはインダストリー毎に分かれています。アドバイザリーは私がトップを務めるコンサルティング部門と、診断ツールや報酬DB等を取り扱うデジタル部門の2つがあり、コンサルティング部門は40名強の体制で以下の4チームです。
・リワード&ベネフィット(ジョブ型人事制度設計)
・アセスメント&サクセッション(人の能力可視化・経営者のサクセッション)
・リーダーシップディベロップメント(トレーニング・コーチング)
・オーガニゼーションストラテジー(グローバル組織設計・次世代幹部育成・組織人事の中長期組織戦略立案等)
- 永田
- どのように案件をいただくケースが多いですか?
- 柴田
- 7~8割がリピートのお客様で、2~3割が新規のお客様です。プロジェクトが走っているタイミングで追加のご依頼をいただくケースが多く、新規の場合は当社HP経由やお電話でお問合せをいただくことが殆どです。既存のお客様からご紹介いただくケースもあり、エグゼクティブサーチが経営者と深い関係を築けているのは大きいですね。お客様から「人を探している」という話があればエグゼクティブサーチと連携しますし、その逆もありでシナジー効果が得られます。また、最近企業全体の人事戦略を描く案件が増えており、日本企業は自前主義で人材を育てる傾向が強いものの戦略的な大転換を行う中で時間軸として間に合わず外部から採るしかないという時に、すぐ解決策が提示できるのは良いですね。
- 永田
- コンサルティング組織全体のミッションは何ですか?
- 柴田
- 当社のグローバル全体のミッションとして「組織と人材のポテンシャルを最大化する」を掲げており、我々もそれに沿って行動しています。その上で、私はメンバーに「お客様の組織人事課題だけではなく、事業・戦略を理解しなさい」とよく言っています。組織と人事の領域はとてもホットな市場で、本格的な参入を試みているコンサルティングファームも増えてきているため、他社との差別化を図るにはより踏み込んでお客様の事業課題を理解していく必要があると思います。
- 永田
- お客様のビジネスを理解した上で人事組織コンサルをすると、どう違うのですか?
- 柴田
- 人事視点だけで考えると「従業員の給料が低いから上げましょう」「評価が不透明だから透明性を上げましょう」等、現状の課題を起点に積み上げていきます。それは確かにハッピーになるかもしれないけれど、必ずしもビジネスに効果があるとは言えません。一方、ビジネスの側面から考えると、先を見てどう手を打つかという話です。例えば「ビジネスのポートフォリオを変えたい。死に筋の事業を切り、伸び筋の事業に投資をした上で新規事業を立ち上げたい」という事業課題を実現するには、必要となる人材と今の人事組織とのギャップを測るところから取り掛かり、それを埋めるべく人事制度や人材育成をどう変えれば良いかを考えていく。どこに起点を置くかによって大きく変わってくるわけですね。日本企業の人事部は経営とかなり距離が遠く、ビジネスを理解できていない傾向があり、事業の売上金額や中期経営計画でどれだけ伸ばしていきたいかを人事の方に聞いても答えられないケースが多いです。そこに我々の介在価値を感じていただけているとも言えますが。
- 永田
- 戦略ファーム出身の方も多いですが、そういう点に面白さも感じられるのでしょうね。
- 柴田
- そうですね。私が旧ヘイグループに入った頃はお客様の責任者が人事担当役員というケースが主でしたが、最近は週に3日~4日ほど経営者の方とお会いしており、日本企業でも組織人事課題が経営マターになってきたと思います。経営者は当然ながら組織人事だけでなくビジョンや事業課題も入り混じったお話をされるので、組織人事の専門家だからといって事業課題が分からないようでは相手にされません。だからこそ戦略ファーム出身者にもジョインしてもらっていますし、彼らも生き生きと働いてくれていると思います。
日本を代表する経営者から直接相談いただける関係性は、当社ならではの醍醐味。
- 永田
- 組織人事課題が経営マターになってきたのは、どういう背景なのでしょうか?
- 柴田
- 私がジョインした当時は、ジョブ型の人事制度導入はコスト効率化の手段でしたし、役員の登用や育成は社内で秘密裏に行われるものであり我々に依頼されるのは管理職の育成など人事マターでしたが、今はコストの効率化ではなく「どう成長させていくか」「どうサバイブしていくか」が課題ですよね。「新規事業をEUで立ち上げたいが、どういうグローバル組織にしたら良いか?」ということをお客様から聞かれるようになり、まさにこれは経営マターです。企業の継続的な発展に向けて組織をどうしていくべきかを考えるために、経営者と直接やり取りするケースが増えてきたのだと思います。あとは、年功序列のままで良いのかという世間の風潮もあります。大企業の経営者は海外経験がある方も多く、日本の人事慣行がいかに異常であるかを認識していて、自ら変えなければという危機意識が大きいように感じますね。
- 永田
- 日本企業で経営者の抱える課題とは何でしょうか?
- 柴田
- 一番大きい課題は、どう考えてもこのままの戦略では成長できないので、リバイバルしていくには新規事業をやるか多面展開をしていくかのどちらかしかなく、現状の組織ではできないのでどう変えていくかということです。もちろんCovid-19やコーポレートガバナンスの問題もありますが、「対応しなければいけない」という受け身の話では企業は生き残れないので、我々としてはどう攻めていくかというご支援が多いですね。
- 永田
- 具体的には、日々どういう仕事をされているのですか?
- 柴田
- 私が関わっているプロジェクト例で言うと、業界第2位の巨大企業において社長が代わられたタイミングで「今の経営陣の体制のままでは成長できない」というご相談をいただきました。役員報酬や社長の後継者問題もあり、役員が多数いるものの各自が何をやっているのかよく分からないため、もっと機能的に体制を組み直さないと意思決定の機動率が高まらない、と。現在は、社長との週次ミーティングを実施しています。センシティブな話も入ってきますし、役員人事はその企業にとって象徴的な事例ともなるので、「ロジックで言うとこうなるが、このレバーを引いた場合にどういう組織的な影響があるか」も同時に考えなければいけません。一筋縄ではいかない話なので、社長と議論を続けています。我々のコンサルティングスタイルは対峙型ではなく協調型であり、議論をリードしながら寄り添う形です。ロジックとしてはこういう案になるけれども、その場合にどういうリスクが考えられるのかをお客様から引き出して意思決定していただくスタイルですね。
- 永田
- この仕事の面白さややりがい、あるいは難しさとは何でしょうか?
- 柴田
- 日本を代表する経営者の方とダイレクトに話ができて、社内では言えないことまでご相談いただけるのはコンサルタント冥利に尽きます。こういう立ち位置で仕事ができるファームは、私が知る限りなかなか無い。反面、私より年上で経験豊富な経営者から信頼を得て同じ目線で話をするには常に最新の知識を仕入れておく必要があり努力しなければいけませんが、それをやらないと楽しみを享受できないとも言えます。戦略ファームから来たメンバーも「これだけ経営者に会える機会は今まで無かった」とよく言っています。ただ、ロジックだけで解決できる領域でもないので苦労する人もいます。相手が言ったことをどう受けとめるかという機微を汲み取る要素も求められますし、言いにくいことをうまく伝える技術も必要です。それが苦手な人は、相当努力しなければいけない部分もあるかと思います。
- 永田
- 企業から貴社が選ばれる理由、競合優位性についてはどのようにお考えですか?
- 柴田
- 経営者のサクセッションやエグゼクティブの採用を行っているのは明らかに強いと思います。普通の人事ファームはお客様の人事部から入っていくのですが、そこから経営に上がるのは難しいものです。我々は経営者に直接アプローチできますし、ビジネスとして経営者のサクセッションは今非常に伸びているので、そこで経営者と関係ができるのは大きいですね。この領域を本格的にやっているのは当社の独壇場であり、ユニークなポジションだと思います。他社が新規参入するのは、ファクトが無いとなかなか難しいのではないでしょうか。旧ヘイグループは人をアセスメントする方法論を多数持っており、誰が後継者に向いているのかという分析ノウハウ・ツール・DBの過去の蓄積があるのは強みです。
第2創業期である当社にて、ぜひ新たな組織人事コンサルティングにチャレンジを。
- 永田
- 貴社のキャリア採用における募集背景と求める人物像についてお聞かせください。
- 柴田
- アメリカの成熟市場を鑑みると、日本でもこれから経営者サクセッションの市場は更に成長し続けると思います。引き合いは多いもののリソース不足で対応しきれていないので、アセスメントできる人が欲しいです。「経営者とはこういうもの」というイメージを持てる人に入っていただきたいですね。あとは、コンサルタントのプロジェクトマネージャークラスを求めています。中長期で人事戦略を考えるという案件が増えているので、戦略ファームや会計ファームでストラテジー系の案件を経験した方が向いていると考えています。
- 永田
- 求めるターゲット層の方にとって、貴社ならではの魅力は何でしょうか?
- 柴田
- 経営者と一緒に仕事ができるのが一番大きいですね。また、組織人事の分野はフロンティアでまだまだやれることがあり新しいことにチャレンジしているので、「色々やってみたい」「新しいことに飛び込んでみたい」という方には面白いと思います。ポリティクスが全く無い会社であり、皆上昇志向は持ちながらも足を引っ張る動きは無く、本当にお客様を向いて仕事ができる環境です。どんなに頭が良くても聞く技術・伝える技術に長けていない人は採用しませんし、お客様に寄り添えないのもNGです。それから、社員の在籍年数が他ファームに較べて圧倒的に長いです。人事組織のノウハウが豊富なので戦略ファームのようなゼロスタートが殆ど無く、ドキュメント作成よりもお客様の意思決定にどう寄与するかという議論やファシリテーションに時間を割くため、徹夜など体力的に追い込まれることもあまり無く、中長期的にコンサルをじっくりやっていきたい方には向いていると思います。
- 入江
- エグゼクティブサーチとの人材の交流はあり得るのですか?
- 柴田
- 会社は1つなので異動はやろうと思えばできますが、エグゼクティブサーチとコンサルではモデルが全然違うので、人の属性もだいぶ異なります。異動が過去にあったことは無いですが、適性と希望があれば異動しても良いとは思います。コンサルティング部門内でのチーム内異動は可能です。若手はプールという形で領域問わず様々な経験を積んでもらい、プロジェクトマネージャーになった時点でいずれかのチームに所属することになります。
- 永田
- 最後に、このサイトをご覧になっている方に向けてメッセージをお願いします。
- 柴田
- 当社は第2の創業期であり、エグゼクティブサーチと組織人事コンサルティングの組み合わせで新しい組織人事コンサルティングの在り方を創り出そうとしているところなので、ぜひ我々と一緒に創っていけるような方に来ていただきたいと思っています。トラディショナルな型に囚われずに、本当に日本企業の人事組織にとって良いことや必要だと思われることを共に考えていきましょう。
構成:神田 昭子
撮影:櫻井 健司
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。