Vol.72
世界最大産業・製造業の常識を塗り替える。独自のAIデータプラットフォームで前人未踏のグローバル市場をこれから制していく。「日本からGAFA級の企業が生まれる」ーそんな可能性に魅せられた人材が続々と集結。
キャディ株式会社
部門執行役員 Japan CHRO幸松大喜氏
部門執行役員 ソリューション本部長 兼 戦略企画部 部長河野翔氏
公開日:2025.07.23
インタビュアー
永田・入江・太田・坂梨
モノづくりに携わるすべての人が、本来持っている力を最大限に発揮できる社会を実現する。そのために製造業の常識を変える「新たな仕組み」をつくることを掲げて2017年に創業したキャディ。以来培ってきたモノづくりの知見と、独自に開発してきたソリューションをもとにいま、製造業AIデータプラットフォームを構築して革新を起こそうとしている。そんなキャディで事業の最前線をリードする河野翔氏と組織をリードする幸松大喜氏に、これまでのキャリアや同社のビジョン、コンサルタント出身者にとっての魅力などについてお話をお伺いした。
「リスクを取って挑戦しないことが、自分の人生においてリスクになる」とキャディへ。
- 永田
- まずは幸松さんがキャディに入社されるまでのご経歴と、キャディに参画された理由について教えていただけますか。
- 幸松
- 私は2014年に新卒でマッキンゼーに入社し、主に製造業向けの戦略コンサルティングの案件に携わりました。私はもともとパブリックマインドが強く、日本の経済を支える第一次産業、第二次産業のあり方に興味があり、大学時代にはその実態を身をもって調査研究していました。そこで優れた技術があるにもかかわらず、競争力を失いつつある現場を目の当たりにして、将来はぜひ日本の産業を強くするような仕事がしたいと。そんな思いから当初は国家公務員を志していたのですが、ビジネスの観点から社会課題を解決できることを教えてくれたのがマッキンゼーでした。
私の大学時代は、東日本大震災が起こって日本が混乱していた時であり、そんななかでマッキンゼーの卒業生の方々がビジネスの切り口から被災地の復興に貢献している様子に触れて、純粋に格好いいなと。私もビジネスからのアプローチで日本の産業を強くできればとマッキンゼーに入社したのですが、コンサルタントの仕事はクライアントワークであり、産業全体を変革するという視点はなかなか持ちえなかった。
あと、私としては超大手の企業よりも、中小でいろいろな悩みを抱える企業と向き合いたいという気持ちもあり、今後のキャリアについて思いを巡らせていたところ、同期の加藤(勇志郎氏/代表取締役CEO)がキャディを創業したんですね。製造業の課題解決を掲げたスタートアップを立ち上げるということで、これは面白そうだと自分から参画を希望しました。
- 永田
- マッキンゼーを若くして退社するのは相当勇気のいるご決断だったかと思いますが、躊躇はありませんでしたか。
- 幸松
- 当時私は26歳で、まだマッキンゼーを離れるのはもったいないという声も確かにありましたが、歳をとればとるほどリスクというのは取りにくくなる、若いうちならいくらでもリカバリーできると思っていました。むしろ、せっかく魅力的なチャンスがあるのに、そこに対してリスクを取れないことのほうが、私の人生にとってはリスクだと感じ、決断にあたって迷うことはまったくありませんでしたね。
- 永田
- 河野さんもご経歴と入社理由をお伺いできますか。
- 河野
- 私は四国の出身で、地元の高専で機械工学を学んだ後、大学に編入してそのまま大学院に進学し、エネルギーシステム工学を専門に研究しました。そうした経歴もあって、いまでも学生時代の友人の大半は製造業に携わっています。私自身はIBMを就職先として選び、スマートシティ関連のプロジェクトや製造業のAI/DX案件・組織変革プロジェクトなどに関わりました。IBMには10年ほど在籍してシニアマネージャーを務めていましたが、世の中に大きなインパクトを与えながら、あり得ない次元でグロースしていくような環境でチャレンジしてみたいという思いが募り、2022年にキャディに転職しました。
キャディに惹かれたのは、CEOの加藤が出演している動画を見て「こんなにイカれた人がいるのか」と衝撃を受けたのがきっかけです(笑)。私自身、製造業の友人と話す中で、製造業が多くの負を抱えていることを知り、問題意識を持っていたのですが、加藤はとんでもない方法でそこに挑もうとしていました。
キャディの祖業である、調達・製造のワンストップパートナーであるCADDi Manufacturing事業は、もし自分が起業家ならば絶対に選択しないと思いました。多品種少量~中量産の世界において発注者(メーカー)から図面や仕様書等をお預かりし、テクノロジーを駆使して図面解析・仕様翻訳・品質リスク検出・原価計算・発注先選定といったオペレーションを効率化し、キャディで最終的な製造責任を負う形で納品するビジネスですが、これはとてつもなく難易度の高いビジネスです。
故に逆に誰も挑戦しない。だからこそ、もし実現できれば圧倒的なアドバンテージになり、真似したくても真似できない強力な事業になる。いわば、もはや社会の流通インフラになりつつあるAmazonが最初に起こった時、きっとこんな感じだったのだろうと想像できて、キャディに賭けてみようと入社を決意しました。
- 永田
- お二人がキャディに入社されてからの経歴についても教えてください。
- 幸松
- 私は、さきほど河野が話したManufacturing事業を当初から担い、お客様から受注した部品を安く、早く、高品質に生産調達していくためのサプライチェーンを国内外で構築してきました。しばらく事業の最前線で指揮を執っていましたが、ハイレイヤーのキャリア採用に関わる機会があり、人材採用と組織人事が事業成長のネックになっていることを実感したんですね。ちょうど事業を統合してキャディが新たなフェーズに入ろうとしているタイミングでもあり、やはり現場をしっかりと理解している人間が人事や組織運営を司るべきだと考え、自ら進んで2024年10月から現在のCHROのポジションに就いています。
- 河野
- 私は入社後、幸松のもとでManufacturing事業に携わりました。入社直後のまだオンボーディングの最中に「サプライサイドがボトルネックになりつつあるので、海外で部品を調達・生産するのに適した新たな国を選んでほしい」という命を受け、アジアを中心に20か国ほどリサーチすることが私に託された最初のミッションでした。いきなり無茶ぶりされたわけですが(笑)、チャレンジできる機会が早々に与えられるのは望むところでした。その後もサプライサイドをスケールすることに注力しました。
そして1年ほど経った頃、突如、加藤と幸松から「製造業AIデータプラットフォーム事業の方でやってみないか」というオファーを受け、すぐに部門を移ってこの事業の推進役を担っています。
このチャレンジによって世界がどう変わるのか、想像もできない。それがキャディの魅力。
- 永田
- いま河野さんからお話のあった「製造業AIデータプラットフォーム」をいまキャディは強力に推進されているとのことですが、具体的にどのような事業なのかご紹介いただけますか。
- 河野
- この事業のコンセプトは、製造業における経験や知見を資産化し、それをAIで活用できる状態にしようというものです。製造業では、設計、調達、製造などモノづくりの一連のプロセスにおいて、個人や組織のなかに貴重な経験や知見がどんどん溜まっています。しかし、それらを形式知としてデータ化し、業務の改善や新たな価値の創出のために活用できているかと言えば、決してそうではありません。
例えば、図面1つとっても「製品や部品の形状」「記号やテキストで書かれた設計指示」「書き殴られた手書きメモ」など非構造な情報の塊なのですが、この中にこそ経験や知見が詰まっています。
我々の製造業AIデータプラットフォームの中で、これらのデータを抽出・構造化し、お客様の社内で自在にアクセスして有益な知見をすぐに入手できる、そんな世界を実現してモノづくりに携わる人の能力を最大化したい、というのが我々の掲げるビジョンです。
- 幸松
- 我々はこのデータプラットフォームにAIを掛け合わせて運用していますが、部署を横断してデータを構造化して共有し、AIを駆使して上流工程からモノづくりを最適化する――我々は「ディープサクセス」と呼んでいるのですが――
これはすでに多数のお客様のもとで実現されています。そして、グローバル展開をいっそう推し進めていきたい。いまUSとASEANでの事業が伸び始めており、我々も士気が上がっています。
- 河野
- 最終的にはグローバルで当たり前に使われるプロダクトにしたいです。たとえば製造業において、CADは設計者なら誰もが使うシステムですし、MicrosoftのExcelやWordは製造業に携わる人のみならずオフィスワーカーが全員使うプロダクトです。我々はこの製造業AIデータプラットフォームを、それらと並ぶようなプロダクトにしたい。挑んでいるのはとてつもなく高い山ですが、同時に非常に面白いチャレンジでもあります。
- 永田
- コンサルタント出身の方が、御社でキャリアを積む魅力はどこにあるとお考えですか。
- 幸松
- やはり自分で意思決定をして、自分で責任を取りながら事業をつくっていくのは、コンサルタント時代には味わえなかった面白さですね。しかも、キャディが掲げるのは途方もない目標であり、誰も成し得ていない挑戦なので、不確実性が圧倒的に高いんですね。戦略を考える上で参考にできるデータが存在せず、コンサルタントが得意とする分析や論理的思考が通用しない。それでも右に進むのか左に進むのかを決めて、もし誤っていたら修正し、正解にたどり着くまで責任を取ってやり切る。本当に大変なのですが、だからこそチャレンジしがいがあると感じています。
そして、実際に事業を創る立場に就いて強く感じるのは、ビジョンを描いて発信する力が大切だということ。キャディが構築している製造業AIデータプラットフォームから生み出せる価値はとても大きく、お客様のためにできることを自ら描き、伝え、お客様と共に実現していきます。
お客様の企業自体が変わっていくのを一緒に感じ、価値を生み出し、届ける最後まで自らの手で成せることに、とてもやりがいを覚えています。
- 河野
- いま幸松が話したように、お客様に圧倒的な価値を届けることができ、お客様が本当に変わる瞬間に立ち会えるのは、私もキャディならではの醍醐味だと思っています。しかも、価値を提供していくスピードも半端ではありません。いままで何年も変わらなかった製造業の現場が、我々との取り組みの中でたった数カ月で変わってしまう。そのダイナミズムは他では味わえないと思います。ここでは自らの意思で非連続な成長を生み出すことができ、自分の一挙手一投足が会社に大きなインパクトを与える、ということを実感できるのも面白いですね。
- 永田
- 最近、御社にはコンサルタント出身者をはじめハイレイヤーの方々が続々と入社されています。なぜキャディは優秀な人材に選ばれるのでしょうか。
- 幸松
- やはり我々の事業がとてつもない成長可能性を秘めているからだと思います。世界最大の産業である製造業を革新するという前人未到の領域に挑むことに加えて、グローバルを制するだけのポテンシャルも有していて、そのスケール感に惹かれる方も多いようです。
転職者のなかには、かつてSaaS企業で役員を務めていたような人もいらっしゃるのですが、やはりホリゾンタル型のSaaSは国ごとに規制が異なることもあって、海外進出がなかなか難しい。限られた市場の中で事業を営むうちに、ゴールのイメージが見えてきて停滞感を覚えるようになって、もう一度、思い切りアクセルを踏んでチャレンジしたいと思った時、キャディはとても魅力的に映ったとのことです。
製造業という未踏のフィールドであれば、お客様に提供できる価値をどこまでも高めていくことができ、かつ製造業が抱える課題は万国共通なので、グローバル市場ではホリゾンタルに展開できる。我々のチャレンジによって、どのような世界がもたらされるのか想像できないことが、かえってハイレイヤー層を魅了しているように思いますね。
これほどお客様に愛されているプロダクトはない。必ず市場を制すると確信している。
- 永田
- キャディはグローバルを制する企業になるとお二人とも確信されていますが、その根拠をあらためて聞かせていただけますか。
- 幸松
- 昨今のAIの急速な進化は、まずデジタルで完結するビジネスにイノベーションを起こしたと思います。そしてこれからは、リアルな世界にAIを掛け合わせることで、いわゆる伝統的な産業が変革されていく。製造業はもとより建設業や物流業など、人や物がリアルに動く産業が抱えてきた「負」をAIで解消していくのは、まさに現場から強く望まれていることであり、絶対に拡大していくと思っています。
そして、CADDiが必ず伸びると私が確信しているのは、お客様の声ですね。ユーザーがそのサービスに対してエキサイトしているかどうかが、市場が急成長するための指標だと思っていて、「CADDiのおかげで会社が変わりました」という熱い声をお客様からよくいただきますし、製造業に携わる中小企業の方々のマインドセット、さらには会社の文化そのものが変わっていることを実感する場面も度々あります。企業のマインドセットが変わることなど、よほどのことがないと起きないと思うのですが、キャディはそれを可能にするだけの力を持っているのです。
- 河野
- 私はキャディの勝ち筋は4つあると思っています。一点目は、グローバルで勝ちやすいマーケットを相手にしているということ。たとえば通信系の事業は、海外に展開しようとすると、国によって規制が違うのでゼロから作り直さなければならない。一方、製造業はサプライチェーンがグローバルで構築されているので、お客様のある拠点にキャディのサービスを導入いただき、そこで成果が出れば他の国の拠点に横展開しやすいんですね。優れたサービスであれば一気にグローバルに拡がる、そんな業界構造であることがポイントです。
二点目はプロダクトが非常に素晴らしいことです。そこにはCPOの白井の哲学が大いに反映されているのですが、我々のデータプラットフォームは、製造業におけるバリューチェーン上のすべての課題を解決することを念頭に置いて設計されています。固有の課題ごとに機能を設けているのではなく、複数の課題をひとつの機能で対応できるように徹底的に考えて作り込まれている。ですから、同じ機能がいろんなお客様のまったく異なるユースケースで使われ、どんな局面でもサクセスを生み出しているのは本当に凄いと思います。
そして三点目は、さきほど幸松も話したように、我々のプロダクトはお客様からとても愛されていること。便利なプロダクトは世の中に数々あれども、本当にお客様に愛されるプロダクトというのは稀であり、愛されるプロダクトなら手放されることはない。お客様から「キャディ抜きではもはや仕事にならない」「キャディがないと社員が辞めてしまう」などという声もいただきますし、我々のデータプラットフォームをお客様が使いこなして「こんなことができるようになりました」と、こちらが想定していなかったユースケースを教えてくださることもある。このデータプラットフォームを活用することで、モノづくりに情熱を注ぐみなさんのモチベーションがさらに高まり、モノづくりをより良く変えることにつながっていると、そう日々感じることができ、キャディの価値を確信しています。
そして最後の四点目は、キャディには最強の人材が揃っていること。全方位に優れた人もいれば、特定の分野を究めている尖った人もいて、このメンバーならどんな問題に直面しても乗り越えていけるでしょうし、逆にこのメンバーで製造業を変えられないのなら、他のどの会社もできないだろうと思っています。
- 永田
- 最後に、この記事を読まれている方々へ向けてメッセージをお願いします。
- 幸松
- コンサルタントとしてキャリアを積むうちに「自分が本当にやりたいことは何か?」と悩まれている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。私の経験上、違う世界に一度飛び込んでみないと、本当にやりたいことは見つからないと思っています。
私自身も実は元々パッションに溢れた人間という訳ではなく、何事もわりと器用にこなすタイプだったのですが、キャディに参画してこの会社とプロダクトを心から愛するようになり、お客様と関わって一緒にリスクをとりながら成功をもたらしていくという、そんなドラマを何度も味わううちに「製造業をもっと変えたい」という志がどんどん高くなってきました。やはりそれは、自ら事業を動かし、責任をもってお客様のために意思決定する経験をしたからであって、「何のために自分はキャリアを積んでいるのか」と悩んでいる方がいらっしゃれば、ぜひこのキャディという環境に一度身を置いてみていただきたいですね。
- 河野
- 私は人間の能力というのは、究極的にはその人がいる環境の平均値に収束していくと思っていて、正直、いまちょっと緩い環境だな、もっと自分にやれることはあるんじゃないか、とお思いの方がいらっしゃれば、キャディという最高の環境で最強のメンバーが集うこの場にぜひ飛び込んでいただければと思います。
すでにキャディはグローバルで700名超の組織になり、もう企業として成熟しつつあるのではないかと思われるかもしれませんが、全くそんなことはありません。キャディはGAFA級の企業になれるポテンシャルを秘めていますし、いまならその初期フェーズにジョインできます。日本からこのクラスの企業が生まれる可能性は、おそらく向こう十年見渡してもなかなかないと思いますね。
構成:山下和彦
撮影:波多野匠
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。