Vol.75
最先端のAI技術を社会に実装していく。 そのためにアプリケーションから半導体まで すべてのレイヤーを究める。 コンサルタントで得たスキルを活かし、 他にはない武器も自ら創り、社会課題を解決する。
株式会社Preferred Networks
最高執行責任者(COO)兼 経営企画本部長小野直人氏
公開日:2026.02.19
インタビュアー
永田・工藤・入江
「現実世界を計算可能にし、共に未来を創り出す」をミッションに掲げ、半導体・計算インフラからソリューション・アプリケーションまで、コンピューティングの要素技術を広く垂直統合し、技術革新を起こして最適な形での社会実装に挑むPreferred Networks。
世界トップレベルのAI関連の技術力を有し、さまざまな業界の大手企業との協業で先進的な取り組みを数々繰り広げており、国内では数少ないユニコーン企業として注目を集めている。このPreferred Networksに2025年より参画し、現在最高執行責任者(COO)と経営企画本部長を務める小野直人氏に、これまでのキャリアと同社で働く魅力についてお話を伺った。
NTTドコモ、Amazon、メルカリ、BCG Xを経て、ここに辿り着いた。
- 永田
- はじめに、小野さんのご経歴を教えていただけますか。
- 小野
- 私は早稲田大学の出身で、もともと学生時代はジャズミュージシャンを志していたんですね。真剣にプロを目指していたのですが、やはりこれではとても飯が食えないという現実に直面し、その道を諦めて一般企業に就職することに。とはいっても、何かしら音楽に関わりたいという思いがあって、当時ちょうどi-modeがローンチされるタイミングで、そのコンテンツの一つに音楽配信があると知ってNTTドコモを志望して入社しました。が、大企業あるあるではありますが、希望通りの配属とはいかず、コンテンツビジネスではなく法人営業や国際事業に携わることになりました。そこでの業務を通じて知り合い仲良くなった戦略コンサルタントの方に勧められたこともあり、米国に留学しMBAを取得。帰国後も希望の業務には携われず経営企画部に配属されました。社費で留学させてもらった手前、すぐに辞めるのも良くないと思い会社に残っていたのですが、もっと他にやるべきことがあるんじゃないかという思いはずっとありました。そんな頃、東日本大震災が起こって、人生何があるかわからないと切に感じたんですね。確かにドコモは大企業で、安定した仕事と生活が出来ているけれど、ビジネスパーソンとして果たしてこれでいいのだろうかと。大企業特有の暗黙のキャリアルートを感じつつ、私がやりたかったのはプロダクトやサービスを創ることであり、やはりそれができる場に身を置くべきだなと考え、ご縁があったAmazon Japanに転職しました。
- 永田
- Amazon Japanでは、どのような業務を手がけられたのでしょうか。
- 小野
- プロダクトマネージャーを務めましたが、本当に面白かったですね。プロダクトやサービスを創る経験そのものが初めてで、Primeサービスを学生向けに展開する「Amazon Student」の立ち上げを担い、さらに事業として回すところまで一貫して手がけ、非常にエキサイティングな経験を得ることができました。ただ、私見ではありますが、アマゾンはオペレーション重視の企業。誰もが当たり前に思うことを、徹底して当たり前に遂行していくことで、ライバルに差をつける会社です。そのため奇をてらった戦略は打ちません。理にかなった戦略を確実に進めていくことは、もちろん他ではなかなか真似できないけれど、その一方でプロダクトやビジネスに別の角度から取り組んでいきたいという気持ちがありました。そう考えていた折に、知人の紹介でメルカリの小泉氏(メルカリ取締役社長兼COO)とのご縁があり、創業期のメルカリに参画しました。
- 永田
- 次のキャリアとしてメルカリを選ばれたのは、どのような理由からですか。
- 小野
- 当時メルカリはC2Cの中ではむしろ後発で、競合も沢山ありました。当時のプロダクト自体は正直いってそれほど優れたものに見えなかったのですが、お会いした方がみな素晴らしかったんですね。彼らと一緒に仕事ができれば面白そうだと参画し、事業開発のセクションを立ち上げるところから担いました。当時、メルカリは物流配送や決済など、外部のパートナーの力を使わないと成立しないが、C2Cコマースには必要な機能がまだまだ脆弱で、それを強化することが重要なテーマだったんですね。そういったドメインをフォーカスする事業開発本部長として様々なプロジェクトを完遂してメルカリの成長とIPOにも貢献出来たかと思います。ただ、上場して1年ほど経ち、企業として次のフェーズに入ったタイミングで、私自身も次の身の振り方を考えるように。そんな折、私のチームが企画した人材採用イベントでBCG Digital Venturesとご一緒する機会があり、面白そうな会社だと思えたので、メルカリで採用する側であった私がBCG Digital Venturesに採用されることになりました(笑)。
- 永田
- BCG Digital Ventures(BCGDV)では、どのような経験を積まれたのでしょうか。
- 小野
- もともとBCGDVは、「ビジネスデザインファーム」としての機能と「ベンチャーキャピタル」としての機能を併せ持っていました。一般的なコンサルティングファームが取引先を「クライアント」と位置づけるのに対し、BCGDVでは「コーポレートパートナー」と呼称し、対等な関係のもとで共同して事業創出に取り組んでいました。さらに、必要に応じて企業とのジョイントベンチャーを設立し、BCGDV自身が資金や人材といった経営資源を拠出することも行っていました。戦略立案や実行支援にとどまらず、その後の事業運営まで一貫して担うことができる、他に類を見ない画期的な組織でした。
Corporate Venturingと呼ばれるソリューション分野になるのですが、主にクライアントの新規事業創出に関わり、プロダクトの企画から開発、運用までハンズオンでサポートし、イノベーションを起こすための組織体制やカルチャー作りまでコミットしていました。この仕事は大企業とスタートアップの結節点で相互にバリューアップを行う、という自分のこれまでのキャリアや実績を活かし社会的意義もある、という意味で非常に面白かったのですが、5年間在籍しているうちに、BCGのグローバルな事業の方向性が大きく変わってしまい、BCGDVという革新的な組織も無くなり、BCGXというブランドの元にデジタル部門が統合される事になりました。グローバルの要請で組織や人材、カルチャーが大きく変化してしまったこのタイミングで、私もまた事業会社に戻ろうと決めたのです。
AIで真に課題を解決するために、垂直統合で事業に挑む稀有なベンチャー。
- 永田
- 多様なキャリアを重ねて小野さんはPreferred Networksに参画されたわけですが、こちらを選ばれたのはどのようなお考えからですか。
- 小野
- おかげさまで様々な企業からお声掛けを頂きまして選択肢はあったのですが、最終的にPreferred Networksに決めたのは、いちばん未知数な要素が多くてよくわからない会社だったからです(笑)。AIの要素技術を社会に送り出し、エスタブリッシュな企業と組んで研究開発を進め、国のお金を使えるぐらい信用を得ていることは理解できたのですが、それ以外、どういう組織なのか実態が何も見えなかった。Preferred Networksはいわゆるスタートアップ界隈ともほとんどつながりが無く、それ故に情報は事前にほとんど得られませんでした。でも逆にそれが新鮮で魅力的で、ここに飛び込んでみることにしたのです。
- 永田
- Preferred Networksに入社後、小野さんはどのような業務を担当されているのでしょうか。
- 小野
- 現在、最高執行責任者(COO)と経営企画本部長を兼務しています。当社の事業領域は4つのレイヤーで表現されています。まずAI半導体を開発/提供する事業、次にそれらAI半導体をクラスタとしてクラウドにて提供する事業、さらにLLM(大規模言語モデル)などの基盤モデルを開発/提供する事業、最後にAIのソリューションとプロダクトを開発/提供する事業の4つです。私はソフトウェア領域の事業群を主に管轄しており、AI半導体開発事業などは財務インパクトが非常に大きいなどの理由から、CFOが直接マネジメントする形で分担しています。
- 工藤
- ではあらためて、Preferred Networksという企業についてご紹介いただけますか。
- 小野
- 当社は「現実世界を計算可能にし、共に未来を創り出す」をミッションに掲げるAIスタートアップです。先ほどお話しした4つのレイヤーでの事業展開を「バリューチェーンの垂直統合」と我々は謳っていますが、ここから生み出された価値の産業応用を進めています。垂直統合というと「AIに関するあらゆる技術を手がける企業」と表面的に捉えられがちですが、我々はクライアントが抱えるニーズやペインに対して、AI に関する様々な要素技術を縦横無尽に駆使して最適な解決法をご提供する事を旨としています。クライアントが本当に求めている性能やコストを実現するためには、既存のサービスやデバイスを組み合わせる形だけではセキュリティやサプライチェーンなどの大小さまざまな問題は必ずしも解決することが出来ません。また、直近では世界の政治・経済・軍事のブロック化が急速に進んでいます。こうした環境においては、経済安全保障の文脈からも我々のような事業者が、AI関連技術を垂直統合的にご提供差し上げる事そのものがクライアントにとって大きな意味を持ってきます。常識的に考えれば、スタートアップが自ら半導体を開発したり基盤モデルを開発するなど、無謀な営みのように映るかもしれませんが、我々はそこまで深く関わってお客様の課題を解決したいという強い想いを持っているということです。手前味噌ではありますが、ここまでの志と事業ポリシーを持ったAIスタートアップは国内はもちろん国外にも見当たらないはずで、その意味で当社はきわめて稀有な存在だと思っています。
- 工藤
- ちなみに、今後の成長戦略はどのように描いていらっしゃるのでしょうか。
- 小野
- PFNの成長戦略の中核にあるのが、顧客価値の最大化の追求とその手段としての垂直統合という選択です。ただし、これは当初から完成された構想として存在していたわけではありません。2016年にAI向け半導体の開発に着手したことが、一つの起点となりました。
当時、AIの社会実装が進む中で、最大の制約になるのは計算力であると考えました。GPUの調達は容易ではなく、価格も上昇傾向にありました。計算資源はAIの基盤であり、その確保が不安定であれば、事業そのものが制約されます。まずはこのボトルネックを自ら制御可能にする必要がある、という判断がありました。
しかし現在の垂直統合は、単なるリスク回避策ではありません。アプリケーションから半導体に至るまでを一貫して設計・最適化することで、レイヤー横断の競争力を構築することが目的です。AIのワークロードは用途やデータによって大きく異なります。アプリケーション、ミドルウェア、計算基盤、半導体を分断されたままでは、真の全体最適は実現できません。全レイヤーを統合的に設計することで、性能向上とエネルギー効率の両立、すなわち持続可能なコスト構造を確立できます。
もう一つの戦略的背景は、不確実性の高さです。AI産業では、どのレイヤーが最終的な付加価値の源泉になるのか、まだ確立されていません。かつてはモデルの大規模化が競争力の中心でしたが、小型モデルの高性能化も進んでいます。半導体が競争優位の源泉になるのか、基盤モデルなのか、あるいはアプリケーションなのかは、いまだ流動的です。
このような未成熟な市場では、特定のレイヤーに依存すること自体がリスクになります。だからこそPFNは、複数レイヤーにまたがる知見と実装力を蓄積し、どこに価値が顕在化しても対応できる構造をつくることを成長戦略としています。
今後、AIが扱うデータは言語にとどまりません。画像、動画、シミュレーションデータ、バイタルデータなど、多様な情報が統合的に処理されるようになります。これらを自在に学習させ、実社会の課題解決につなげるには、LLMの特性理解からデータ設計、計算基盤までを一体で設計する能力が不可欠です。
PFNは、AIを人の代替としてではなく、人間の可能性を拡張する基盤と捉えています。人が直接扱えなかった複雑なデータを学習し、解釈可能な形で提示することで、産業と人、あるいは産業同士をつなぐ役割を果たします。その実現には、複雑なシステム全体を理解し、ボトルネックを構造的に解決する力が求められます。
垂直統合は、単なる事業領域の拡大ではありません。クライアントに真の意味でのソリューションを提供するための必須手段であると同時に、不確実性の高いAI時代において持続的に成長するための構造的なかつ本質的な戦略だと考えています。
コンサルタント出身者が、大いに仕事を楽しめるフィールドが広がっている。
- 永田
- Preferred Networksにコンサルティングファーム出身者が参画すると、どんなポジションで活躍できるのでしょうか。
- 小野
- まずはAIソリューション&プロダクト本部などにおけるBizDevのポジションですね。ここで言うBizDevは、AIに関する様々な技術を選び抜いて組み合わせクライアントの課題を解決するいわゆるAIソリューションコンサルタントです。実際にどのようなソリューションを提供しているのかは先ほどお話しした通りですが、お客様と相対し、お客様が抱える課題と当社の技術を結びつけて、解決するためのプロジェクトを成立させてデリバリーするところまでを担うポジションであり、コンサルティングファームで築いたスキルセットが大いに活かせると思います。
また、私が直接統括する経営企画本部においても、これから人材を拡充したいと考えています。多くのスタートアップがそうであるように、当社も事業の現場側と経営企画部門が良い意味でまだ明確に分かれていないんですね。現場と経営企画の間を行き来しながら、戦略の企画立案と実行を一緒に推進していくような経営企画/事業推進のポジションを強化していきます。さらに、プロダクト開発に関わるプロダクトBizDevやPdMのポジションですね。当社が提供するプロダクトもまだまだ市場を広げられるポテンシャルを秘めており、そのための新規プロダクト開発とローンチを再現性を以て実現するアクセラレーションプログラムの運用を開始しました。ここで新規プロダクトの開発にBizDevやPdMとしてオーナーとなり活躍していただくポジションもあります。
- 永田
- コンサルティングファーム出身の方がPreferred Networksで味わえる面白さは何だとお考えですか。
- 小野
- いろいろあると思いますが、前述のAIソリューションコンサルティングを行うポジションでいうと、ファームと比べると同じクライアントワークではあるのですが、自由度は格段に高いと思いますね。通常のファームだと、おそらくマネージャーに昇格するまでは、いろいろな局面で自ら意思決定し何かを進めていくのは難しいのではないかと思います。パートナーやプリンシパルレイヤーの人間が獲得してきた案件に参加し、その領域でバリューを出すことが求められることが多いと思いますが、当社のAIソリューションコンサルタントは、個人に委ねられる裁量がきわめて大きく、キャリアに関係なく、挑戦したい案件を自ら行動を起こして獲得することが可能で、プロジェクトも自分の意思で采配できる。セールスもデリバリーも一貫して取り組んでいただいています。
- 工藤
- 先ほど小野さんが「昨年まで解決できなかったクライアントの課題が、進化したAIの技術で今年は目に見えて解決できるようになる、そのスピード感がエキサイティングだ」とおっしゃっていましたが、そうした経験が得られるのもPreferred Networksならではだと思います。
- 小野
- その通りです。それができるのも、当社が本当の意味で優秀なエンジニアとリサーチャーを擁しているからであり、彼らと協業して世の中にインパクトを出し続けることが出来る、ということも非常に大きな魅力だと思います。また、創業者である西川(徹氏)や岡野原(大輔氏)はAI研究で世界的に認められている権威ですが、普段、オフィス内で身近に接することができるんです。ランチタイムのトークが最先端の技術の内容だったり、最新の論文の内容なども気軽に解説してくれるので、知的好奇心が満たされると思いますし、お客様に新しいソリューションを展開する上でのヒントがいくらでも手に入る環境です。
- 工藤
- 他にない武器を駆使してソリューションを提供できるのは、コンサルティングを担う身としては大いにやりがいを覚える点だと思います。
- 小野
- 私たちは、単に最先端の研究を行うだけの組織ではありません。未知のフロンティアに挑みながら、その成果を確実に社会へ実装し、実際の価値へと転換することに強くこだわっています。
PFNの特徴は、研究開発と社会実装が分断されていない点にあります。基礎研究で培った技術を、自らプロダクトやソリューションとして磨き上げ、実際の産業現場で機能させる。しかも、それを一過性ではなく、継続的な成果として積み上げてきました。この実績が評価され、現在では大企業や政府関連機関、公的研究機関などからも、高度かつ難易度の高いプロジェクトが次々と寄せられています。
そうしたプロジェクトに真正面から向き合い、現場のコンサルタントやエンジニアが構想段階から主導して企画・開発を進め、その成果が社会に広く利用されるプロダクトへと発展していく――その好循環がすでに生まれています。
今後も、最先端技術を確実にビジネスへと結びつけ、持続的な経営基盤を築いていくことが重要なテーマになります。その実行力をさらに強化するうえで、産業や経営の現場を深く理解した人材の力を強く求めています。
急成長を続けるユニークな事業会社で、最先端技術と経営の両面に関わりたい方にとって、PFNは極めて挑戦的な環境です。フロンティアを切り拓きながら、実社会にインパクトを残す、その最前線に立ちたい方の参画を期待しています。
- 永田
- では最後に、ポストコンサルで新しいキャリアを志向している方々に向けて、メッセージをいただけますか。
- 小野
- これからの時代において、AIに関する高度な知識と実践的なスキルを身につけ、それを自らの競争力にしていくことは、多くの方にとって不可欠になるはずです。単にトレンドを追うのではなく、AIを深く理解し、実社会で機能させる力を持てるかどうかが、キャリアの質を大きく左右します。
その軸を明確に持ちながら、自ら意思決定に関わり、事業を動かしていきたいと考える方にとって、PFNは極めて挑戦的な環境です。研究開発から社会実装、さらには事業化までを一気通貫で担い、最先端のAI技術を現実の産業や社会課題の解決につなげていく。これほどの幅と深さを同時に経験できるフィールドは、決して多くありません。
社会全体の「負」を技術で解決する。そのプロセスに主体的に関わり、自らの成長と事業の成長を重ねていきたい方であれば、大きな手応えを感じられるはずです。高い志と実行力を持つ方にとって、ここには本気で挑むに値する舞台があると思っています。
構成:山下和彦
撮影:櫻井健司
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。