新しい産業を生み出す触媒的装置はベンチャーキャピタルをおいて他にない

新しい産業を生み出す触媒的装置はベンチャーキャピタルをおいて他にない

Vol.13

新しい産業を生み出す触媒的装置はベンチャーキャピタルをおいて他にない

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ

パートナー Chief Operating Officer今野 穣氏

日本最大の独立系、ハンズオン型ベンチャーキャピタルであるグロービス・キャピタル・パートナーズは1996年に第1号ファンドを組成して以来、100社を超える起業家へ約400億円の資金を継続して投資し日本の産業創造に貢献してきた。コンサルティングファームから転職し、同社のリーダーとして活躍するパートナーの今野穣氏はなぜ、ベンチャーキャピタリストへの転身を決断したのだろうか。

転職の決め手は「そこで働いている人たちの元気さ」

入江
新卒でコンサルティングファームに就職したきっかけは何ですか。
今野
大学生のとき、私は司法試験を受験するためにわざと1年留年しましたが、試験の結果は残念ながらダメで、それがわかった夏から就職活動を始めました。すでにその時期には主だった企業の採用試験は終わり、残っているのはインベストメントバンクとコンサルティングファームぐらいしかなかったんです。そうした企業をいくつか受けて内定をもらった中から、当時のアーサーアンダーセンビジネスコンサルティングに入社しました。決め手は新卒採用第一号で前例がなかったこと、人事の方に手厚い対応をしていただいたことです。司法試験でムダにした1年という時間を挽回したい。それには上が詰まっている組織ではなく、一気に成長できるところがいいと考えました。
入江
当時はどの部門でどんな案件を手掛けていたのですか。
今野
部門は戦略チームで案件としては製造業が多く、グローバルサプライチェーンの供給プロセス改革プロジェクトや、組織再編に伴う業績評価体系構築などを担当しました。無駄にした時間を取り戻そうと仕事に集中して3年でマネージャーになり、その後はある大手メーカーの中期計画策定プロジェクトなどを担当しました。新卒だった私を採用するコストと引っ張ってもらったご恩はお返しできたかなと思ったところで退職し、2006年7月にグロービス・キャピタル・パートナーズに移りました。
入江
順調に昇進していた今野さんが転職を考えるきっかけは何でしたか。
今野
正直に言うと、飽きてしまったからです。無力感もありました。基本的にコンサルティングは受託ビジネスなので先にテーマがあってそこに最善を尽くすという形になっていますが、そう簡単に会社は変わりません。ベンチャーキャピタルに来るとよくわかりますが「組織は人なり」なので、おかしくなっている会社の中の人が変わらない限り、どんなソリューションを提案しても変わりにくいんです。そんなもどかしさや、「自分は役に立てているのだろうか」という思いがありました。では次に何をするかですが、リスクを軸に考えると大手向けの受託ビジネスと起業が両極に位置します。その中間くらいの仕事がいいなと考え、人の紹介で当社ともう一社だけ話を聞きに行き、最終的にグロービス・キャピタル・パートナーズに決めました。
入江
グロービス・キャピタル・パートナーズに転職した決め手は何だったんですか。
今野
ベンチャーキャピタルという仕事と、そのエコシステムで働いている起業家たちです。「なんて元気で前向きな人たちなんだ!」と。何か世の中に新しいものを生み出そうとしている、モチベーションが極めて高いコミュニティのなかで仕事ができるのは面白そうだと思いました。それに、コンサルタントは時としてクライアントと利害や目指すべき方向が合致しないときがありますが、ベンチャーキャピタルと投資先企業は判断する時間軸の違いで意見が分かれることはあっても、出資者かつ当事者としてのコミットメントがあり、「新産業の創造」、「企業の成長」という意味での大きな方向性では齟齬がない。そんな匂いも入社前に感じました。

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米国のベンチャーキャピタルと同じ土俵で勝負する

入江
実際に入社してみて、入社前に感じたこととズレはありませんでしたか。
今野
いま申し上げた点については入社前に感じた通りでしたが、ビジネスとして儲けを出すところは想定していたよりもタフでした。当社に入社する人たちは前職できらびやかな肩書きや成功体験を持っているのですが、たいてい最初は撃沈されます。コンサルティング会社であれば顧客企業の売上や経営基盤がある程度担保されているので、業務改革やコスト圧縮で利益を生み出せます。しかし、ベンチャーはまず売上からつくらなければいけません。売上をつくるのはお客様にどう製品やサービスを受け入れてもらうかという話であって、コンサルタントとして組織をうまく動かし高いパフォーマンスを発揮していた人でも売上を0から1にすることは難しい。ではどうするかというと0を1にできる人を連れてくればよいのですが、最初は「自分でできる」と思っているので己の力の無さを痛感します。私も最初の半年間はとてもつらかったです。それまで培ってきた能力が、ベンチャーキャピタリストをやる上ではこんなにも役に立たないのかと。
入江
つらい半年間を乗り越えられたのはなぜでしょう。
今野
要因は3つあります。1つ目は根っこの気持ちが折れなかったこと。日本に新しい産業を生み出したいという転職する時の思いがぶれなかったので、表面的なつらさはありつつも楽しめました。2つ目は慣れで、半年ほどでだいたい業務を理解できました。3つ目は自分がメインの投資案件を早く持てたことです。コンサルタントと一緒で新人は最初、サブの担当者として案件に入るのですが、私は半年で自分がメインの案件を持たせてもらうことができ、ラーニングが早まりました。ベンチャーキャピタルは赤字会社に出資するほうが多いので、たとえば投資委員会から決済を得て3億円を出資すると、売上を増やさない限りそのお金が1000万円、2000万円とみるみるうちに減っていきます。「やばい、このままいくと2年で何もなくなる……」というギリギリの感覚を味わいながら何をすればよいのかを考え行動するのと、サブの立場から「こうすればいいじゃないですか」というのでは全然違いますから、それはとても大きな変化でした。
入江
ベンチャーキャピタリストという仕事の楽しさはどこにあると感じていますか。
今野
細かい喜びはいっぱいあって、通勤電車で自分が投資している会社のサービスを使っている人を見るととても嬉しいですし、投資先の会社の人が成長していく姿を目の当たりにするのも嬉しいです。数年で急成長している会社の中の人は無茶苦茶成長します。大企業に勤めていたときは従属的な立場でしか話をできなかった人が社長になり、「会社の看板を背負うとこんなことまで言えるようになるんだ」と驚かされるのは本当に嬉しい瞬間です。あと、投資先の社員数が増えると雇用創出という意味でやりがいを感じます。実は、リターンが出たときはあまり楽しいとは感じません。投資した会社が上場を間近に迫った段階で役員を退任し、実際に上場していくときには、「この会社を世に送り出して本当に大丈夫かな」と、むしろ緊張感でいっぱいになります。
入江
ベンチャーキャピタルのパートナーとしてのやりがいは何でしょうか。
今野
パートナーとそうでない人の大きな違いは、投資家対応の有無にあります。幸い我々は圧倒的な実績を出しているので、海外の機関投資家から多くのお金を預かっています。昨日も香港で海外の機関投資家とコミュニケーションをとっていたのですが、世界の名だたる投資家たちと接していると自分が日本を代表しているような使命感を持ちます。国内だけでやっていたら限られたパイの奪い合いにしかなりませんし、海外から集めたお金でLINEのような新しいサービスを生み出せたらいいレバレッジになりますよね。新しい産業を生み出せる触媒な装置はベンチャーキャピタルしかないと私は思っていて、そこにこの仕事のやりがいや使命を感じています。
入江
他のベンチャーキャピタルと御社の違いはどこにあるのでしょうか。
今野
比較的大きな金額を投資するという点で、他社より多くリスクを取りにいきます。そして投資先には必ず非常勤役員として経営チームに入るので、投資先との距離感や責任感がまったく異なります。単に数千万円を出資し、財務諸表をもらって眺めるだけでは何の学びもありませんが、我々は事業を大きくする過程で起きるさまざまな課題を役員として把握し、どんな打ち手を取るべきかディスカッションしていくので、その案件が成功するか否かは別にして学びが蓄積されていきます。「このチームのケミストリーでは将来、こんな事態が生じそうだからこの点に注意しておこう」といった洞察力が身に付いてくるので、次の案件に対する精度がまったく違ってくるのです。また、すでにお話したように海外の機関投資家が多くリターンへの要求度が高いので、そこから始まるさまざまなアクティビティは気合いが違います。海外の機関投資家はアメリカや中国、インドなど世界中のベンチャーキャピタルと比較してリターンの高いところに投資しますから、我々に投資してもらうにはアメリカのベンチャーキャピタル以上のリターンを出さなければいけない。そういうプレイエリアのなかで我々は仕事をしています。

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ベンチャーキャピタリストは総合格闘家

入江
コンサルタントの経験がいまに活きていることはありますか。
今野
ベンチャーキャピタルは総合格闘技のようなところがあって、案件開拓ではネットワーキングやコミュニケーション能力が大切で、審査のときは分析力、投資した後の事業を大きくするところはコンサルティング力、売却のときは投資銀行のような能力が必要です。つまり営業、アナリスト、コンサル、投資銀行の組合せなので、すべてが一からのスタートだと厳しい。ところがコンサルタント出身者は最初のよりどころを一つ持っているわけです。また、コンサルタントは経営に関するフレームワークで物事を整理するのに長けているので、走りながら考える起業家とは相性がよいです。ただし、MBA保持者や前職がコンサルタントだからといってベンチャーキャピタリストとしてうまくいくとは限らず、過去においてはMBA取得の有無による相関関係はないですね。
入江
それはなぜですか。
今野
MBAが悪いということではなく、MBAとは別のところにパフォーマンスを上げる要因があるのだと思います。フレームワークをつかって仮説をつくるとき、情報が少ないと地に足のついていないサジェスチョンしかできません。つまり、フレームワークよりベースとなる情報に対する好奇心と、それを取りに行くフットワークのほうが大切なんです。また、ベンチャーキャピタリストは人好きである必要があります。投資は事業の目利きが大事とよくいわれますが、それ以前に投資すべき人や会社と出会い、どう信頼関係を結び、エクスクルーシブな関係にもっていけるかが極めて重要です。たとえば2年前に私がモデレーターを務めたカンファレンスで、あるネット企業でそれまでの赤字を一掃する素晴らしいサービスをつくった人と知り合い友人になりました。そして最近、「会社から役員昇格の話をもらったが独立して自分のビジネスをやりたい」という相談を退社前に受け、「創業直後の会社に出資はできないけれど、ある程度のところまできたら一緒にやろう」という話になりました。こういう関係性ができていると他社がまったく知らない案件に投資することができ、それがリターンに直結します。ピカピカの案件を持つには時間をかけ、仕事の利害関係に入る前の人間関係をつくれるかどうかにかかっているんです。
入江
投資以前の人間関係構築が重要なのですね。
今野
私は起業家が相談にきたらまだ投資するステージでなくても会いますし、好きな人を集めて飲み会をしたり忘年会を企画したりして、コミュニティづくりに力を入れています。ただ、それは単に投資するための人脈づくりだけが目的ではありません。よい人がいたら起業家候補というだけではなく、アライアンスを組む相手になるかもしれないし当社の採用候補になるかもしれません。よい人と出会うといろいろな展開があり得るんです。ただ、先に魂胆があっての人間関係は長続きしませんから結局、一人の個人として人間関係をどうつくっていくかが問われます。自分が成長しないと人脈も成長していきません。したがって、事業の目利きや分析力といった話とは別に、ベンチャーキャピタリストは常に自分を成長させ、人としての魅力を向上していくことがとても大切です。
入江
最後に、次のキャリアを考えているコンサルタントにアドバイスをお願いします。
今野
キーワードは「成長」だと思います。個人としての成長を最大化できるような仕事であるとともに、日本という国の成長に資するところで働いて欲しい。そして、ベンチャーキャピタルはまさにそんな仕事だと思います。今はPCを開けばgoogle、Facebook、Twitter等、海外のサービスばかりですが、私はここに日本のサービスを入れていきたいと思っています。大変なので安易な気持ちで入ると長続きしませんが、日本の成長に貢献する気持ちを持ち、個人としても成長することを楽しめる人は、当社に合っていると思います。

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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