私がコンサルティングファームで学んだこと、アマゾンのマネジメントで実践していること。 私がコンサルティングファームで学んだこと、アマゾンのマネジメントで実践していること。

Vol.03

私がコンサルティングファームで学んだこと、アマゾンのマネジメントで実践していること。

アマゾン ジャパン株式会社

バイスプレジデント メディア事業部門長渡部 一文氏

アマゾン ジャパンの渡部一文バイスプレジデントは住友電工からベイン・アンド・カンパニーへ転職しコンサルタントとして活躍した後、GE、そしてアマゾン ジャパンへと再び事業会社に移った経歴の持ち主である。メーカーからコンサルティング会社へ、そしてコンサルタントから事業会社のマネジメントへという転身に成功した要因は何だろうか。
コンサルティングファームへの転職者が直面する壁を乗り越える
入江
渡部さんは住友電工時代にアメリカでMBA留学を経験し、帰国後しばらくしてベイン・アンド・カンパニーに転職されています。事業会社からコンサルティングファームに移られた経緯はどのようなものでしたか。
渡部
エンジニアだった私は、留学後はある事業部の企画担当になり、事業計画の立案などに加えて、海外工場進出や提携などさまざまな国際交渉にも携わりました。そのなかで、ある韓国企業に技術供与をする仕事を担当し、韓国へ出張する機会がありました。交渉相手はその韓国企業の社長と、技術パートナーであるイギリス企業のシニア・バイス・プレジデント。交渉相手の二人はディシジョンメーカーであるのに対し私は決定権のない立場でしたので、二人からその場で決断を求められても、立場上即決できませんでした。後日稟議書を書いて社内に回し、承認印をいくつももらった後でないと返答できなかったわけです。
そこで上司に「なぜ即答できる人間を交渉に送り込まないのか。これでは対外的な信頼を得られない」という話をしたところ、上司からは「20年待て。その頃、あなたは部長になっているかもしれないし、稟議書もいらなくなっているかもしれない。」と言われました。その答えを聞いて「20年は待てないな……」と思ったのが転職を考えるきっかけになりました。国際交渉の場に平社員である私を送り込んでくれたことにはとても感謝していますが、意思決定に長い時間がかかることと、自分が経営に携われるまでに非常に長い時間がかかると気付いたときに「じゃあ、どうしようか?」と考え始めたのです。
入江
メーカーからコンサルティング会社への転職はスムーズにいきましたか。
渡部
自分のなかにそもそもコンサルティングとは何かとの理解があまりなかったので、それはもう大変でした(笑)。当時は、たとえば9時から5時までお客様のところへ行き、その後自社オフィスに戻り、マネージャーから「今日の話をまとめ、分析を行い、先方に提案する内容を明日の朝9時までに20頁位で書いておいて」などと指示されることがあるわけです。しかし、何をどう分析すれば短時間で答えに行き着くのか知らないし、そもそも何を書けばよいのかもわからない。何も書けないまま0時が過ぎ、結局朝3時まで何も書けずにあきらめて帰宅する。当初はそんな日がよくありましたね。その頃は「首になるかも……」と暗い顔をして歩いていたかもしれません。
入江
そんな苦境をどうやって脱したのでしょうか。
渡部
少しずつ蓄積が増えたことが大きかったと思います。どういう状況でどんな分析を行い、どんなファクトがあれば「こういう仮説があり、それを証明できた」と言えるのか、実践を重ねるなかでだんだんわかってきました。コンサルティング会社ではまず仮説をつくり、それをイシューツリーと呼ばれる作業レベルの構成要素に要素分解します。それに基づいて構成要素ごとに作業計画を立て、実際の仕事を進めていきます。作業を進める中で、それまでの仮説を覆す新しい事実を発見すれば、仮説そのものを改訂して行きます。メーカー時代はいろいろな可能性をしらみ潰しに分析し、「この方法が一番良さそうだ」というアプローチをとっていました。恐らく私はメーカー時代の感覚が抜けないままコンサルティングの世界に入ったため、「なぜすべてのファクトにあたっていないのにこの仮説が正しいとわかるのか?」という違和感がありました。その頭の切り替えにものすごく時間がかかったのかもしれません。その頃がキャリアで一番ストレスの大きい時期でした。毎日二時間か三時間くらいしか寝ていませんからね、ずっと考え続けていて。夢のなかで解決策が浮かぶのですが、目覚めたら何も覚えておらず「あれはいったいなんだったんだ!?」と一生懸命思い出そうとしたり。そんな時代でした。
入江
最初は大変なご苦労だったようですが、コンサルティング会社には6年在籍されています。メーカーとの違いを乗り越えてからのお仕事はいかがだったでしょうか?
渡部
メーカーにいたら20年後、30年後にしかできない経営に関わるディシジョンメーキングを、レコメンデーションのレベルですが毎日のように行い、大企業のトップや事業部長クラスにご提案する仕事はあまりできないことだと思いますし、一緒に仕事をさせていただくクライアント側のカウンターパートの方たちも社内で特に選抜された優秀な部長さん達でしたので、緊張感あふれる大変刺激的な環境でした。

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コンサルタントから事業会社のマネジメントへ
入江
コンサルティング会社に6年在籍された後、今度はGE、そしてアマゾンと転職されていきます。コンサルから再び事業会社に移られたのはなぜですか。
渡部
コンサルタントはお客様にレコメンデーションを行いますが、それが実行されるかどうかはお客様の内部の判断になります。当時、通信事業に異業種参入したある大手企業から事業成長戦略の策定を依頼されたことがあります。最終的な私たちのレコメンデーションは「通信事業からの撤退」でした。激しい価格競争、技術変化の激しさの中で、継続的な投資を行い競合他社に太刀打ちすることがいかに困難であるかを常務会でプレゼンをしたら「多額のお金を払って事業をどう伸ばすのかをレコメンデーションしろと頼んだのに、なんていうことを言うんだ」と一時は騒然となりましたが、数年後にその事業は売却されました。しかし、コンサルタントがレコメンデーションした事実は公にされることはなく、売却までのプロセスにも関与できませんでした。レコメンデーションしたことを自分で実行したらどんなことが起こるのだろうか……。もっと違う実行の仕方をすればちゃんと儲かる事業になったのではないか……。そんなことを考えるうちに、事業会社に飛び込んで自分で事業を回したいという気持ちが強くなったのです。
入江
選択肢はたくさんあったと思いますが、そのなかでGEを選ばれた理由は何ですか。
渡部
最初の転職で学んだことですが、まず自分のスキルセットとのギャップがあまりにも大きなところに飛び込んで、右往左往して時間を無駄にしたくないと考えました。当時、ベインではプライベートエクイティファンド向けの企業買収にまつわる業務もやっていたので、方向性としてはM&Aのコンサルタントになるかファンドに行ってM&Aを手がける、という選択もあり得ました。しかし、別のコンサルティング会社やファンドに転職しても自分で事業を経営できる保証はありません。その点、GEは事業開発部と呼ばれるM&A部隊があって、ここならばコンサルタントとして培った自分のスキルを活かしながらGEというコングロマリットの中に入っていくことができ、どこかで事業運営をするチャンスをつかめるだろうと思いました。いくつかあった選択肢のなかでは給料は高いとは言えませんでしたが、次のステップとして非常に魅力的で、かつ自分の付加価値もすぐに出せそうなことがGEを選ぶ決め手でした。
入江
GEではどんなお仕事をされていましたか。
渡部
GEには6年いて、最初の三年間はGEジャパンの事業開発ディレクターとしてM&Aとアカウントマネジメントを担当していました。大手企業のカウンターパートナーとして、トップ同士の会談の段取りをつけたり、「貴社のこの事業売りませんか」「GEのこの事業買いませんか」と事業の売買を行っていました。ここではコンサルタント時代のスキルが活かせたと思います。その後、GEヘルスケアに移り、アジア全体のサービス部隊のマーケティング統括GMを担当させてもらいアジア中を飛び回っていました。
入江
そして2006年にGEヘルスケア・バイオサイエンス(現GEヘルスケア・ジャパン)の副社長に就任されました。経営者になるのはこれが最初ですね。
渡部
実は、この会社はもともとGEが買収した企業でした。買収直後にインテグレーションリーダーとして一度担当した企業で、今度は経営者として参画することになったのです。
入江
人のマネジメントは大変だと思いますが、どのように行っていきましたか。
渡部
この会社の規模は200人くらいでした。人のマネジメントでは、現在も行っていることですが、キーになるマネージャー達と毎週一対一でミーティングを行って、予め決めてあるキーメトリクス(指標)のレビューを中心に現状と見通しをデータに基づいて話してもらい、一緒に対策を詰めていきました。特に、「うまくいっていないことは何か」を聞いて一緒に原因を分析して、必要なら仮説を訂正し戦術や組織を調整していくことを繰り返す。それは自分が部下だった時、上司にやって欲しかったことでもあります。課長としてうまくやっていた人も部長になると以前とは当たるべき課題が変わりスキルギャップが生まれ、わからないことが出てきます。それに対して私は「わからなかったら一緒に考えよう」というスタンスで接していました。かなりハンズオンだと思います。
渡部
ご自身が経営に携わるようになって、業績は伸びましたか。
渡部
ここでは業績が下がりつつある事業をいかに建て直すかが課題でした。それは私のなかで一番大きなスキルセットでもあります。事業ライフサイクルの成熟期から衰退期を迎え、S字カーブが頂点から次第に下降する局面で関連する新しいビジネスに乗せ換えたり、リストラしたりしながら、新たな成長と高い利益率を確保する。そんな仕事をコンサルタント時代からたくさんやってきて、ここでも取り組みました。

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コンサルタント出身者がアマゾンに向いている理由
入江
GEに在籍された後、2008年にアマゾンに移られます。歴史のある企業から若い伸び盛りの企業、医療から書籍販売、BtoBからBtoCのネットビジネスへという大きな変化を伴う転職ですが、きっかけは何でしたか。
渡部
ヘッドハンターです。それまで私は、挑戦者であるIT企業側よりも、伝統的ブリック&モルタルの側を勝たせたい、というところで働いてきた人間で、当時はアマゾンで買い物をしたこともなかった。だから話をいただいた当初は「何で私に?」と思いましたが、どんな能力が必要か聞いてみると、まず戦略立案とその実行やピープルマネジメントなどベーシックな事業マネジメントのスキルセットが重要であると。一方、事業領域でいうと医療機器屋と本屋はまったく異なりますが、書籍市場をみるとこの先に起こりうることはある程度予測でき、事業としてどう整えていけばよいのかが見えてきました。また、書籍販売というBtoCの事業においても、医療のようなBtoBの事業で要求される交渉力が欠かせません。要するに、どんなルートを使い、どんな条件で取引先とつきあうのかを決めていく能力が極めて重要になるのです。そうやって必要なスキルセットを要素分解していくと、「これなら自分を活かせる」と思ったのが転職してみようと思った動機ですね。もちろん、アマゾンが成長し続けていることも大きな魅力でした。
入江
先ほど、事業ライフサイクルの成熟期から衰退期に下降する局面での建て直しがご自身の大きなスキルセットというお話がありましたが、アマゾンは飛躍的に成長している会社です。その点はいかがですか。
渡部
事業ライフサイクルはアマゾンのなかの各事業によってもそれぞれ異なります。私が担当している書籍や音楽の市場そのものは縮小しており、私たちはその市場以上に大きくなることはできません。従って、市場の縮小というトレンドそのものをなんとかしなければいけない。そのためには、従来の紙やCD/DVDの事業の伸長だけではなく、電子書籍やMP3の展開といった新しい芽をつくり、育てていくことが必要で、現在はその両面をやらせてもらっています。
入江
コンサルタント時代に身に付け、いまも役に立っている能力は何ですか。
渡部
早いタイミングで仮説をつくり、必要な分析を行い、事業戦略に落とし込んで実行していくことです。的確にできているかどうかは別にして、そういう考え方が一つ。その他、「うまくいかないことはたくさんあるんだ」という一種の達観ですね。要するに、自分の仮説自体が間違っていることも少なくないわけです。そんなとき、最初の仮説に拘泥するのではなく「事実はこうなのだから変えていけばいいのだ」という柔軟性。コンサルタント時代に身に付けたそうした考え方がいま、役に立っています。
入江
コンサルタントから事業会社への転職はどんな点に気をつけるべきですか。
渡部
自分が苦労したところから考えると、転職はリスクの少ない形でしたほうがよいと思います。コンサルタントが事業会社へ移ろうとすると、同じ仕事内容ではやはり給料レベルは下がります。そこで無理に同じ水準を保とうとするとスキルセットが合わずアップアップしてしまう。特に、コンサルタントは、自身が事業責任を持った経験がないことを忘れ、事業会社ではすぐに対面にいた経営者や事業部長になれるように期待しがちです。PLを持ち、そこで働く人たちの生活と成長に長期的にコミットすることは、重いです。転職に当たっては、すぐに自分の付加価値を発揮できるかどうか、そしてそこで成果を出すことによって自分に新たにどんな可能性が生まれるのかを真剣に考えるべきだと思います。その中で、自分が最終的に経営者になるのに向くのか、マーケティングや人事など各機能のスペシャリストやコンサルタントに向くのかも見えてきます。奥さんに「同じ給料をもらえないでどうするの!」と言われているのかもしれませんが、ならば「これは自分が成長するためのワンクッションである」と説得しなければいけません。自分の能力を発揮できるようになったら正当に評価され、その後はちゃんと上がっていくからと。
入江
アマゾンに向いているのはどんな人材でしょうか。
渡部
アマゾン社員全員に求められるOur Leadership Principlesに賛同できる人です。OLPは、全部で14項目ありますが、たとえば、”Dive Deep”、すなわちリーダーとしてすべてのレベルの業務に関与し、常に詳細を把握しているかどうか。人としては強い信念を持ちつつ、真摯にいろいろな意見を受け入れ周りから信頼される”Earn Trust of Others”であるかどうか。また、ネット業界は「自分の思いついたサービスをやりたい」という人が多いですが、アマゾンは常にお客様を起点に考え行動する”Customer Obsession”という姿勢を貫いており、その意味ではコンサルタント出身者は向いていると言えます。
入江
戦略コンサルタント出身者を求める企業が増えてきていますが、そのなかでアマゾンで働くことにはどのような魅力がありますか。
渡部
データに基づいて自分で考えたことを、素直に自分で実行に移せる点です。「あと20年待て」と言われたり、自分の知らないところで物事が決まったりすることはありません。もちろんその過程では多くの議論や社内交渉もありますが、自分で考えたことを結果が出てくるところまで導けるのは、コンサルタントの人にとって魅力でしょう。逆にレコメンデーションだけ行って、実行は他人任せという姿勢は許されません。加えて、いろいろな事業があるので、違うポジションで異なる課題に社内で挑戦することができます。たとえばアマゾンの書籍販売はとてもよく知られていますが、衣料品販売はまだアーリーステージにありテレビCMを打ったりもする。更に、アマゾンのお客様にeCommerceを提供するためのサーバーや物流網がそれぞれアマゾン以外の事業者に対する新しいサービスになっています。このようなフェーズや内容の異なるさまざまな事業のバラエティも魅力でしょう。何より、自分たちがサービスレベルを上げることによって、人々の生活におけるアマゾンの使われ方が目に見えて変化することは、やはりBtoC事業ならではの楽しさです。

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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