経営者を志すコンサルタントが意識すべきこと。それは、日々の仕事の中で思考力を鍛え、早いうちにキャッシュの重みを感じる経験を積むことだ。

Vol.24 後編

経営者を志すコンサルタントが意識すべきこと。

株式会社JVCケンウッド

代表取締役 兼 執行役員副社長 兼 CSO 兼 メディアサービス分野COO 兼 企業戦略統括部長田村 誠一氏

公開日:2015.04.1

インタビュアー 永田

アクセンチュアでの戦略コンサルタントを経て、企業再生支援機構でマネージング・ディレクターとして実績を上げ、現在JVCケンウッドの取締役を務めている田村誠一氏。経営者を志向するコンサルタントの方々にとっては、たいへん参考になるキャリアに違いない。田村氏に、コンサルタントから経営者に転身する上で求められることについてうかがった。

Message

ファームでのパートナー経験は、必ずしも事業会社で役立つわけではない。

入江
さきほど、田村さんはコンサルタント時代に人一倍努力されたとのことですが、具体的にはどのように毎日を過ごされていたのですか。
田村
とにかくインプットは誰よりも多くしようと努めていました。アクセンチュアに在籍した18年ほどですが、その間で6000冊は本を読みましたね。絶えず自分の中に新たな知見をインプットしていかないと、よほどの天才ではない限り、際立ったアウトプットを出すことはできない。私の場合、目の前の仕事に関係する、しないに関わらず、興味を持ったテーマの本は片っ端から読みました。そうしてインプットを続けていくと、雑多な情報もどこかでつながって自分の付加価値の源泉になっていくんです。
入江
ほぼ一日一冊のペースですか……コンサルタントという仕事はただでさえ忙しいのに、この勢いで本を読まれていたというのは驚きです。これほどまでに努力をされたのは、何がご自身の原動力になっていたのでしょうか。
田村
「不安」でしょうか。もはや情報のアービトラージだけでコンサルタントがお金を稼げる時代ではない。独自の付加価値のあるアウトプット出し続けなければ、すぐに淘汰されてしまう。たとえば3か月後にクライアント企業の役員へプレゼンする機会が控えていたとして、この3か月間は誰よりもクライアントの課題解決について考え抜いたという確信が持てなければ、不安でプレゼンになど臨めない。クライアントに「私もそう思うんですよ」と言われることは決して誇らしいことではなく、自分の存在価値を一瞬にして否定されたことになるわけですから……逆に、クライアントから「これは思いつかなかった、なるほど面白いね」と認めていただければ、これ以上気持ちが昂ぶる瞬間はない。それを味わいたくて必死で努力していたという感じでしょうか。ビジネスの世界に限らず、プロフェッショナルはみな、「不安」を克服するために誰よりも努力するのだと思います。
入江
そうした努力を重ねられていたからこそ、パートナーまでスピード昇進されたのですね。そして、田村さんはファームのパートナーから経営者に転身されたわけですが、同じように「コンサルタントから経営者へ」という志向を持つ方々のなかには、ファームを辞めるタイミングに悩まれる人も結構いらっしゃいます。田村さんは、パートナーまで務めたことがいま役立っているとお考えですか?
田村
パートナーまでキャリアアップして損はないと思う点は、やはりこのポジションに就いて初めて、さまざまな企業のトップマネジメントと対峙できるんですね。マネージャークラスだと自分が担当するプロジェクトを完遂するのに精一杯ですが、パートナーになると見える世界が全然違う。プロフェショナルファーム業界全体を俯瞰して、いま我々に求められている付加価値は何かということを理解できますし、視野が一気に広がります。ただ、プロフェッショナルファーム業界に骨を埋めようという方はもちろんパートナーを目指すべきだと思いますが、事業会社の経営に携わりたいという志向の方は、必ずしもそうでなくてもいいんじゃないかと……。

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いま振り返ると、30代でキャッシュの重みを感じる事業経験を積むべきであった。

入江
経営者になるためには、ファームのパートナー経験はそれほど必要ない、ということですか?
田村
個人的にはそう思いますね。事業会社で生きていくための力を得るには、プロジェクトマネージャーを経験すれば十分ではないかと。コンサルタントは、短期間で大まかな答えを示す仕事。一方で、事業を担うということは、最後の1%まで自らやりきらなければならない。根本的に求められる資質が違うんですね。だからプロフェッショナルファーム業界を究めたところで、その経験が事業会社で役立つかといえば、意外とそうではない。と言いながらも、私がアクセンチュアでパートナーを務めていた時は、下のメンバーに対して「パートナーになってこそ一人前だ」と指導していたのですが(笑)……でもそれは、ファームに在籍する以上は、その世界でトップにたつという志を持つべきだというのが私の考えで、そうでなければ、壁にぶつかた時に逃避してしまう。成果を上げられず認められないから転職する、というのは私の価値観にはなかったものですから。
入江
いま田村さんは、「事業会社で生きていくための力は、マネージャーを務めれば十分得られる」とおっしゃられましたが、それは具体的にはどんな力なのでしょう。
田村
ビジネスを動かす上で必要とされるのは、物事を徹底的に考えて本質を見極める力です。それはプロジェクトマネージャーになるまでに十分身につくものだと思っています。一方で、いくらコンサルタントとしてキャリアを積んでも得られないものもある。それは、キャッシュの重みを感じながら事業に関わるという経験。確かにコンサルタントは、さまざまな経営者の考え方に触れる機会には恵まれますが、排水の陣でそれを実践することはない。事業会社で重要なのは、やはりそこなんですね。本来ならば、経営者へのパスと考えると、私も30代でそんな経験を積むべきだったと感じています。
入江
やはり経営者を志しているコンサルタントは、若いうちにアクションを起こしたほうがいいということですか?
田村
将来、社会に対して及ぼす影響力の大きな、エスタブリッシュな日本の大企業の経営に携わりたいと考えるなら、やはり30代からそうした経験を積んでおかないと間に合わないように思いますね。30代で、小さくてもいいので自ら収益責任を負って何かの商品やサービスを扱う経験を重ね、次第に大きな塊を自分で動かせるようになってはじめて、多くの社員の家族の生活を背負う資格が得られるのだと思います。このステップはどうしても必要。実際、学卒でファームに入り、そのまま純粋に戦略コンサルタントして経験を積み、40歳50歳になってパートナーからいきなり大企業の経営者に収まるというのは、例があまりありません。退路をたって、キャッシュの重みを感じながら事業運営する経験を積んでいないからなんですね。おそらく経営者をスカウトするヘッドハンターも、コンサル経験しかない人材は敬遠するんじゃないでしょうか。私は運良くファームでパートナーまで務めて経営者になりましたが、こうした経歴のほうがレアだと思いますね。

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事業経営に求められる類の思考力を、コンサルタント時代に養っておく。

入江
田村さんが、経営者としてのポジションを獲得できた一番の要因は何だとお考えですか。
田村
それはやはり企業再生支援機構での経験が大きいと思います。機構では、私のようなコンサル出身者はもとより、投資会社出身者、会計士・弁護士、M&Aアドバイザリーなど、実に多様な専門家の混成部隊が、事業会社の役職員はもちろん、あらゆるステークホルダーと、あるときは協力し、あるときは対峙しながら、七転八倒しています。大変革期にある日本企業のプロ経営者に求められる資質に気づき、自ら現場で事業をターンアラウンドする経験を積み、そして人の縁も得たからこそ、JVCケンウッドに経営者として参画できたのだと思います。
入江
では最後に、事業を経営する側で次のキャリアを考えているコンサルタントの方々にアドバイスをお願いします。
田村
戦略コンサルタントとして得られるスキルで事業会社においても重要なのは、先ほども触れました通り、物事の考えぬく力だと思います。ただ、その方向性を誤ってはいけません。たとえば “A”という初期仮説を立てたとして、ダメなコンサルタントは、“A”の検証に全精力を傾けてしまうんですね。ちょっと気の利いたコンサルタントは、敢えて“A”を否定してみることで“A”を“B”に進化させようとします。優秀なコンサルタントは、そもそも“AかBか”は課題の本質ではなくて・・・、と更に思考を深めていきます。 “A”を主張する自分、“A”を否定する自分、課題設定そのものを見直す自分。私はよく「3人の自分をもて」と表現するのですが、そうした思考を養っておくべきだと思います。
入江
そうした思考は、事業会社に身を置いた時にどのように役立つのでしょうか?
田村
社員はみなさまざまな思いを抱いています。誤解を恐れずにいえば、事業会社は個別最適の塊なんです。「正しい」「正しくない」で割り切ろうとしてもなかなかそうはいかない。戦略は常に構想通りには進まない。その際、自分が「正しい」と考えることを理路整然と主張するだけではまず通用しない。求められるのは、対立の奥にある本質を見極めて、対立そのものを無意味にしていく力。根本を解きほぐして、それに関わる全員が同じ方向を向けるように仕向けていく力。そこに戦略コンサルタントの思考法が大いに役立つと思いますし、事業会社でそれができる人はあまりいないように見受けられます。加えて、事業会社では、その企業が長い歴史の中で培ってきた文化や風土を心底理解しなければいけない。ベンチマーキングに裏付けられた「べき論」など、絶対に完遂できません。パートナー時代、ある歴史ある大企業の副社長から「提案いただいた新事業は魅力的だと思う。でもうちがやる事業ではない」と言われたことがあります。事業会社の経営というのはそういう側面もあるということをきちんと心に留めておくべきだと思います。
入江
なるほど、ファームのパートナーと事業会社の経営、両方をご経験されている田村さんならでのご意見ですね。
田村
あとひとつ、いまのプロジェクトでバリューを出せないコンサルタントは、やはりどこに行っても通用しないということ。コンサルタントは自分の性に合っていないという方もいらっしゃるかもしれませんが、数か月後のアウトプットにすらこだわれないようでは、事業会社に行ってもおそらくバリューを発揮するのは難しいと思いますね。どんなに苦しくても、誰よりも明るく、誰よりも粘り強く。私からのアドバイスはそれに尽きるような気がします。

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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